「あいつは……、ルナはオレの嘘を初めて受け入れてくれた人だから」

真っ赤な顔で薄く微笑むリュウにリナは少しだけ驚いたようにまばたきをする。

その微笑みにかられてか、リナはぽそりと呟くように喋り出す。

「言っとくけど、お姉ちゃんは告白を流す位の鈍感じゃないわ」

あまり喋りたく無かった事のように、ノロノロと喋る。

リュウがルナに真剣に告白をした事は、二年前のルナの話から伝わっていた。

「お姉ちゃんは、色恋沙汰を親から教わらなかった事もあるかもしれないけど、期待をしないのよ」

心当たりがあったかのように、無表情でリナの言葉を聞いている。

「期待して、裏切られて現実を見たくないから本能的に気付かないんだと思う」

まぁ、あの時は色々なごたごたがあったからかもしれないが。

リナとリュウの頭の中には、ルナの幸せがもろく崩れた、両親の目の前での死の瞬間が生々しく浮かぶ。

その時の絶望は、どれだけのものだっただろう。

反動で期待をしなくなるのもうなずける。

「そっか……、ありがとな、教えてくれて」
「べっ、別に。て、言うかアンタの為じゃないから!」
「ハイハイ、ツンデレツンデレ」
「なっ! わたしはツンデレじゃないわよ!」

リナが顔を紅潮させて叫ぶ。

そんな時、バタバタという足音が聞こえたと思えば、ルナがカバンを肩にかけて駆け寄ってきた。

「リュウ君!! ツバサを貸して下さい!」

いきなりの事で、一瞬ギョッとするが、リュウは真面目な顔で「勿論」とうなずいた。

リュウはカイリューを出すと、カイリューの羽ばたきによって起こった強風が、三人の横を通りすがる。

風でルナの向日葵のような髪が、リュウの何にも染まらない黒髪が、リナの蜜柑のような髪がなびく。

「ルナを乗せてやってくれ」
「アンタはお姉ちゃんと一緒に行ってあげないわけ?」
「ん……、ちょっと別件で調べなきゃならない事があってさ。大丈夫か、ルナ」
「はい。一度、カントーを一周しましたから迷子にはなりません」

「そっか」さっきの話を聞いて、ルナの健気さが胸に染みて、頭をわしゃわしゃ撫でた。

「あぅ」
「オレはヒエンに乗ってくから大丈夫だし、ツバサの力が必要無くなったら、その場に放置してくれればオレのもとに戻ってきてくれるからさ」
「わかりました」

ルナはうなずいてから、リナへ振り返る。

思わずリナはドキッとしてしまう。

「リナ。また留守番になっちゃうんだけど……」
「わたしは大丈夫だから、早く探しに行ってきて?」

そう言うと、ルナは申しわけ無さそうに眉を下げながら微笑む。

「ありがとう……」

ルナがカイリューの上に飛び乗る。

背中を撫でて「よろしくね」と言っているようだ。

「一年後、ううん、半年後楽しみにしててね!」

なんの事だかわからず、首をかしげるリナをよそに、カイリューはまた羽ばたき始める。

「いってきまあすっ!!」

カイリューの羽ばたきに負けない位の大きい声を出して、向日葵のような笑顔で手を振る。

リュウとリナも、口元をほころばせて声を張り上げた。

「いってこい!!」
「いってらっしゃい!!」

二年前は孤独感に襲われたが、今は不思議と寂しさは感じなかった。

なんだか心の中が晴れ晴れしい。

笑顔で見送りたいという気持ちが溢れてくる。

変わったルナを見て、自分も少しは変われたのだろうか。

「しばらく一緒に居てやろーか?」
「願い下げよ、一昨日来やがれ」


もしもあの時、なんて
(考えても仕方がないのに)


20121215

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