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十兄妹は、どちらも顔の偏差値が高めであるので、スーパーではちょっとした騒ぎになっていた。
十兄は特に奥様方に好まれる容姿をしているので、遠巻きにされながらもまるでアイドルのようだった。
十妹も男だけでなく、女性にも好感の高い清潔な見た目をしているので、十兄の隣にいて妬まれる事は無かった。それどころか、憧れの的になっていた。
「お兄ちゃん!こっちの豚肉の方が安いよ!今日は豚肉の生姜焼きにしよう!」
「そうだね、そうしようか」
まさか彼等がそんな庶民的な会話をしているとは、遠巻きに見ている奥様方は夢にも思わないだろう。
しかも料理をするのは陽菜乃ではなく、龍之介の方である。
「みりんあったかな?」
「えっと、あったけどちょっとしか無かった、かな?買っておく?」
「うん、一応ね」
「じゃあ一番お得なコレね」
「でかいね……」
「入れる時大変だよね」
まぁ、入れるのはお兄ちゃんだから大丈夫だと思うけど、と溢す。龍之介は柔道をやっていた事もあり、筋肉がしっかりとついている。
少し位大きい瓶に入ったみりんも、軽々と持ち上げて料理してしまう事だろう。その様子を想像してはにやけてしまう。
「デザートは牛乳プリンと寒天ゼリー、どっちにする?」
「牛乳プリン!」
「分かった」
無邪気な笑みと優しい笑み。お互いの笑みを見て、幸せそうな笑みになる。
周りのギャラリーは見ているだけでその幸せを分けてもらった気になり、頬が緩んでしまう。
「そういえば、甘い物好きだって言ってたなぁ……」
生クリームを手に取りながら、ふと龍之介が消え失せそうな位小さな声で囁いた。
果たして誰を思い浮かべてそんな事を言ったのか、少しも分からなかった。
「……?」
ただ一つ分かった事がある。
──その表情は、陽菜乃が過去に一度も見た事が無い位に慈愛に満ちた物であった。
心の臓が落ちる音
(ちくり、)
(なんだか)
(心が痛む)
■■さいととっぷ