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今日一日は彼女の事ばかり見てしまったけれど、実に充実していた。なんと言っても席が隣同士なのだ。
下を向いた時にさらりと髪が落ちた瞬間も、その落ちた髪を耳にかける瞬間も、間近で見れる。
彼女がこちらに気付いた時は、バレてしまったとヒヤヒヤしたけれども、こちらを見て微笑んでくれたから役得だと思った。
さて、そんな充実した一日は驚く程にあっという間に過ぎていき、放課後になった。
その事がどうしようもなく寂しくて、恋というのは不思議な物だ。
「七瀬君」
思いがけなく陽菜乃から話しかけられ、肩を跳ね上げてしまう。
「また明日!」
優しい笑顔を向けて、手を振ってくれる。それだけで、幸せな気持ちになった。
それから、少し欲が出てしまう。
「あ、あのっ!!」
ガタガタッ、と立ち上がる。
陽菜乃が驚いたように目を丸くする。
ドキドキしてしまって、顔が見れない。口の中も段々渇いてきて、声が出しにくい。
それでも、これでお別れなんて嫌で、勇気を振り絞って声を出した。
「い、一緒に……か、帰りま」
「いーんちょー、帰ろー」
──のに、突然の声に遮られてしまった。
「環君!?バスケ部はどうしたの……あっ、ごめんね七瀬君!またね!」
「あ……、うん……」
呆然としたまま、彼女が扉へと駆けていくのを見守った。
たまき?たまきというと、苗字か名前か判断しかねるけれど雰囲気から察するに名前のような気がする。
基本クラスメイトの男子には苗字で呼んでいるのに、彼とは相当仲が良いらしい。
立ち尽くしながら、目眩のような失望感を感じていると、側から小さく話し声が聞こえてきた。
「あの二人って付き合ってんのかな?」
「ええ?陽菜乃ちゃんが不良と付き合うかぁ?」
「でも元クラスメイトで、よく二人でいたんだよなぁ……」
「まじ!?俺陽菜乃ちゃん狙ってたのに!」
「あー、十さん可愛いよなぁ。でもお前は絶対無理」
「うっせー!」
知らなかった事実を知ってしまい、胸がズキッと痛くなる。
こういう痛みを感じてみると、本当に彼女の事を好きになったのだと実感した。
陸だって以前のクラスの女子で仲良かった人なんていたのに、彼女に異性の友人がいると知っただけでこんなに目の前が暗くなるなんて。
片想いというのはなんて自分勝手で我が儘になってしまうんだろう。
恋をする前は、好きになった人にはただ幸せだけを願いたい、そう思っていたはずなのに。
欲張りになっていく心に、自分自身戸惑う。他の人達もこうなんだろうか。
自分のなかで、醜いとも言える感情が膨らんでいく。
──でも、隣にいて欲しい。
だから、
欲張りになっていく心
(妥協はもうしない)
■■さいととっぷ