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 七瀬陸は昔から呼吸器系の病気を患っていた。そのせいで、昔から学校を休みがちであった。
 今回もそうだ。気を付けてはいたのだが、ちょっとした場所のハウスダストを吸い込んでしまい、発病し──そしてしばらく学校を休む事になってしまった。

 そんな弱い自分が憎らしくてたまらなかった。

 やっと馴染んできたと思ったのに、高校三年生になってまたクラス替えという最悪な事態が起こり、人間関係がリセットされてしまい、新しいクラスの人と仲良くしたいと思った矢先の事である。
 つまりは、新学期始まって間もなく休んでしまったのだ。

 一番避けたい事だったのに。

 これではクラスから浮いてしまう。去年同じクラスでよく話していた「和泉一織」とは違うクラスになってしまったし。
 名前は知っててもあまり話した事の無い人ばかりだった気もする。

 そんなクラスの前に今立っているけれど、さすがに足が重い。

「お、おはよー」

 勇気を振り絞ってドアを開ける。

 すると、一斉にこちらを向くので、思わず後ずさる。
 一部の人間は完全に陸を忘れているのか「誰?」と首を傾げている。そんな反応に、心がじくりと痛んだ。

「あ!」

 そんな中、一人の少女がこちらを向き、花のような笑顔で近付いてくる。

 不思議と、目が離せなかった。

 彼女の笑顔、彼女の瞳、彼女の揺れる髪、彼女の仕草、全てを見てしまう。
 側に来た彼女は自分よりも背が低く、腕や足はすらりと細く、か弱そうだった。
 ふわりと香る優しい匂いはシャンプーの匂いだろうか。

「おはよう。
 七瀬君だよね?」

 彼女の声に、きゅんと心臓が鳴るのを聞いた。

 一体今自分に何が起こっているのか、訳が分からなくて、混乱した頭のまま首を縦に振る。自分でもびっくりする位に、体が動かなかった。

「これ、七瀬君にって思って」

 胸に抱いていたノートを、自分に向ける。
 その表紙には丁寧な文字で「七瀬君ノート」と書いてあった。少し、笑ってしまった。

「な、なにかおかしかったかな?」
「あっ、ごめん!違うんだ!えっと……これ、俺に?」
「うん。結構長い間休んでたから、来れるようになった時大変だと思って。あ!字ちょっと汚いかも知れないけど、ごめんね!」

 ううん、そんな事無い。

 表紙の文字を見てるだけで分かる。汚い訳無い。むしろ、自分よりも上手な文字に緊張してしまう位だ。

「体、もう大丈夫?無理、しないでね」

 少し首を動かした反動で髪がさらりと揺れる。それだけなのに、ただそれだけなのに、


 どうしてこんなに、顔が熱いんだ。


「私、席替えして七瀬君の隣になった陽菜乃です。よろしくね」

 彼女がもう一度微笑んだ時、自分は完全に恋に落ちたんだと理解した。



君の全てに恋をした
(思わず「好き」なんて)
(口から溢れる所でした)


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