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「九条天です。よろしくお願いします」



 ガタッと、隣の彼が思わず立ち上がっていた。
 かく言う陽菜乃も立ち上がりそうになった。脳裏に少しも浮かんでいなかった訳でも無いけれど、まさか本当に彼だなんて。

 天はというと、こちらを見ながら怪しく微笑んだ。その瞬間にクラスの女子から黄色い声が飛び交う。
 陽菜乃だけは額に浮かんだ冷や汗を拭えずに思考停止していた。

「どうしました、陸君?」

 担任の万理先生のその声で我に帰ったのか、「す、すみません……」と言いながら静かに席に着く。彼の動揺は手に取るように分かった。
 ……会いたくなかったのだろうか?
 と、いうのも陸が見た事無い位に険しい顔をしたからだ。かと思えば寂しそうな顔になったり。どうしてなのだろう。

 パッと天を見てみれば、彼は涼しげな顔をして陸の事をちょっとも見ようとしない。
 一体彼等の間に何が起きたというのか。

「では、席は陽菜乃さんの後ろです」
『へっ!?』

 お互い小さな声だったけれど、 同時に裏返った声を出してしまう。二人して自分達の後ろにいつの間にか置いてあった机を見つめた。
 意外と意識していないと気付かないものだなぁと関心してしまう。そんなうちにも、天は席まで来ていた。

 相変わらず陸には目を向けず、何故かこちらを見ていた。

「よろしく、十さん?」
「は、はははい」

 席に座り、頬杖をついて綺麗に笑う彼は、先日会った彼とは全くの別人のように見えた。なるほど、これが余所行きの顔なのか。
 とはいえ、周りからの羨望の目と、隣の彼からの目がなんだか痛いのでこちらを向かないで頂きたい。切実に。

「……、知り、合い?」
「えっ、う、ううん……一回会っただけ、です」

 自分でも分からないけれど、目を逸らしてしまう。
 嘘なんて吐いてないのに。何もやましい事なんて無いというのき。なのに、どうして、

「ねぇ」

 陸が口を開こうとした時、それを遮るかのような絶妙なタイミングで天が口を開いた。

「今日の放課後。校内、案内してよ」
「どうして私に……?」
「君、委員長なんでしょ?」
「う……」

 何故知って──兄だな。

 脳裏に兄の能天気な笑顔が浮かぶ。いつもはそんな笑顔が好きなのだが、今は少し憎らしかった。
 確かに委員長として、転校生のサポートをするのは当然かもしれない。本人はとても涼しげな顔をしているけれど、初めての学校はなにかと大変だろう。

「わ、分かった」

 了承した瞬間に、天が満足そうに笑った。
 陽菜乃はこの時初めて『小悪魔スマイル』というのを見たかもしれない。



 ……ちょっぴりドキッとしたのは内緒だ。


 小悪魔が微笑んだら
(それは誘惑しているという事)



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