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「んで、結局なんでこいつ連れてきたんだよ」

 会わせたい、と言っただけで詳しい事情は一切言われていない。挙句の果てにその人物がまさか天だったとは。

──最悪だ。

「あ、そうそう。楽、歌上手い人探してたでしょ?
 天はすごく上手いから聞いてみてよ」
「はぁ?どうせ『お手本になるような歌』だろ。俺が欲しいのはそういう歌じゃねぇ」
「…………喧嘩売ってるの?」

 ぎろりと楽を睨み付ける。
 生憎、陰険先生の喧嘩を買う程子供では無いけれど、歌について聞いてもいない癖に色々言われるのは癪だった。

「だったらお前が苦手そうなPOPなラブソング歌ってみろよ」
「……いいよ、聞かせてあげる」

 不敵に笑みを浮かべるのが意外だったのか、僅かに楽は驚いたように呆気に取られているようだ。──ざまぁみろ。

 ちらりと陽菜乃の方を見ると、なんだか不安そうな顔をしていたので、安心させる為に自信あり気に笑ってみせる。
 すると、彼女が息を呑む。
 何に対してそんなに驚いた顔をしているのだろうか。しばらく見つめていたけれど、楽に早く歌えと急かされてしまった。空気読んでくれる?などと思ったけれど、なんと言っても彼女の前だ。ただ睨み付けるだけにしておこう。

「じゃあ、いくよ」

 すぅっと息を吸い込み歌い始める彼は、陽菜乃が見ても格好良いと感じた。

 その威風堂々とした立ち姿に目が奪われたし、不思議と鼓動が波打つのが分かった。
 アイドルのような魅力を覚える、と同時にある人物の顔が浮かんだ。最初はぼんやりとしていたけれど、段々明瞭になってくる。

(まさか……でも、似てる……。
 さっきの笑い方も、似てたし……)

 悶々と思案していると、ふと、天と目が合う。

 先程からよく目が合うな。なんて考えながら実は少しドキドキしていると、彼が手を自分に向かって伸ばしてきた。
「?」不思議に思いながら耳を傾けていると、


「 キミが 好きだよ=v


 そんな歌詞が聞こえてきた。
 自分に言われている訳では無い、なんてことは無いただの歌詞なのに……なのに、どうしてこんなに顔が熱くなるのだろう。

 勘違いしないように一所懸命に頭の片隅で素数を数えていると、いつの間にか天の歌が終わっていた。
 落ち着いて考えてみると、自分に言われているかのような感覚にさせる彼の歌が凄いのではないかと思い、いつの間にか拍手していた。

「……ふぅん、まぁ、確かに口だけじゃねぇみたいだな」

 楽を関心させるなんてやっぱり彼の歌は相当凄い、と思い陽菜乃の隣で龍之介も嬉しそうに笑っていた。

「でも、こいつ別の学校だろ。意味ねぇじゃん」
「それについては心配無いよ」

 さらりと、微笑みながら言う龍之介に問いただそうとした時、天のポケットにある携帯が鳴る。電話ではなくメールだったのか、すぐに音は止むけれど、天が少し寂しそうに目を伏せたような気がした。

「……これで分かったでしょ。じゃあ、そろそろ行かないといけないから」
「うん、ありがとう。天」

 君を紹介出来て良かったと言いながら龍之介が見送りに行こうと天の後ろをついていく。
 その後ろ姿に、慌てて陽菜乃は声をかけていた。

「ま、待って!」

 先に振り向いたのは龍之介だったけれど、天もその後にゆっくりとこちらを向いてくれる。

「……何?」

 赤紫色の瞳が、こちらを真っ直ぐ向く。
 なんとなく聞きにくくて、すぐに言葉が出なかった。

「あの、七瀬陸君って……知ってる?」

 恐る恐る聞いてみると、天は両目をかっと見開いたまま瞬きすら忘れているようだった。その反応は、イエスの証のように思えて、陽菜乃も釣られたように息を飲んだ。

「…………」

 すいっと視線を逸らされてしまう。

 そのまま話を逸らされそうだな、と思った。けれど、我ながら余計な事を聞いてしまったかと思っていたので、逸らされても良かった。
 そして、やはり目を逸らされて、背中を向けられてしまった。

──かと思えば、顔だけこちらを向く。

「陸は、ボクの弟だけど?」



 この歌この声、君に届けと
(いつの間にか、)
(君へと歌ってた)

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