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「彼は、俺達のいた高校に通ってる、
 ────天だ」

 彼は、圧倒的な存在感を放っていた。
 楽も陽菜乃にとってはアイドル並の存在感だけれど、それとも少し違っていた。なんと言えばいいだろうか、アイドルで例えるならセンターのような輝きというのだろうか。

 そんな彼を見つめていると、ふと彼もこちらを見た。

 気のせいかもしれないけれど、その綺麗な無表情が驚きの表情に変わったような気がする。──と思ったら、眉を釣り上がらせてこちらを睨んできた。

「……何」
「あっ、ううん……ごめんなさい」

 さすがに見すぎたかと思い、慌てて目を逸らす。
 ……なのに、横から感じる痛い位の視線はなんだろう。睨み付けられる程に怒らせてしまったのだろうか。

「こらこら、天。うちの妹を睨み付けないで」
「………………別に」
「天、って……このガキ?」

 楽の顔がわかりやすい位に嫌そうな顔になる。

「あれ?もしかして知ってた?」
「まぁな……嫌味な位『本物の天才』で騒がれてたしな」
「……」

 天才!?自分と同い年の彼が!?

 陽菜乃が驚いたようにまた天を見つめる。
 彼というと、左側の長い襟足を指に巻き付ける仕草をして、なんだか涼し気な顔をしていた。言われ慣れているのだろう。

「し、か、も。こいつ俺のピアノ全否定してきやがって!くそ、今思い出しても腹立つ!!」
「何。本当の事言われて悔しいの?大人げないね」
「なんだと!?」
「ちょ、ちょっと待って!」

 一触即発の喧嘩を始める彼等を止めようと、龍之介は慌てて止めに入る。
 けれど、二人に強く睨み付けられ、怯んでしまう。それでも止めたい龍之介は困ったような顔した。

(お兄ちゃん……!)

 大事な兄が困っているのを見過ごせなかった陽菜乃は、とっさに体が動いていた。

「お、お兄ちゃんを困らせないで……!く、ください……」

 天の腕を抱き締めるような形で掴み、彼女なりに精一杯睨み付ける(若干涙目である)。

 すると、天は石になったかのように固まる。
 楽も二人の間で、戸惑っているのか二人を交互に見ていた。……と、いうか、

「…………お前、照れて」
「っ、ない!!」
「だっ!!」

 何が起こったのか、楽が一気に顔を歪める。

「……っ、分かったから離してよ!」
「ご、ごめんなさい……」
「な……」

 天の怒鳴り声で泣きそうになる彼女に、焦りを隠せない。
 どうしようかと悩んでいるうちに、兄である龍之介が陽菜乃の頭を優しく撫でていた。

 陽菜乃が、少し顔を赤くして兄を見上げる。

「お、お兄ちゃん?」
「陽菜乃。天はちょっとクールでこんな感じだけど、本当は優しい子だから勘違いしないでね」

「それに、何かあったら俺が守るから安心して」と優しく微笑む龍之介。
 兄のそういう所、昔から大好きだなぁ。なんて、心の中で思いながらも、ちょっと恥ずかしくて下を向く。

「……うん」



 少女から見えている世界
(優しいな、お兄ちゃん)

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