『バトル・ファイト!』

こうして二人の戦いの火蓋は切って落とされた。

二人のボールは同時に地につき、中から煙が出てきた。

「サン!」「パンチ!」
「連続パンチ=I」
「乱れ引っ掻き=I」

ルナはサンドパンを、リュウはガルーラを同時に出す。

指示をするスピードはリュウの方が微妙に速かった。

連続技が交錯する。

しかし、打たれ強いのはガルーラの方が一枚上手で、サンドパンがよろめいた時にガルーラが急所を突いた。

「サン!」
「ガルーラは防御が高いだけじゃなく他のステータスも高いポケモンなんでね。メガトンパンチ=I」

  戦闘不能。
「サン、ありがとう。……あのトキワのガルーラですよね」
「ああ。パンチが得意だからパンチ≠チて名前だ」
「良い名前ですね」

サンドパンをボールに戻して、次のボールを構える。

「巨体には巨体を! ハピ!」
「! ラッキーか」
「まぁ、巨体と言ってもガルーラの丁度半分の大きさなので大きく見えないんですけど」

しかもジュゴンの方が実質は大きかった。

防御力はガルーラほど高くないが、HPの値が高いので、そう易々と倒されることは無いだろう。

「歌う=I」
「猫騙し=I」

今度はルナの方が若干、指示が速かった。

ガルーラはラッキーの歌で眠ってしまう。

しかもそれだけでは無いのか、ルナは余裕の笑みを浮かべる。

「さっきのサンドパンの乱れ引っ掻き=B通常よりのろく感じませんでしたか?」
「──な、まさか!」
「はい。ただの乱れ引っ掻き≠ナはありませんでした。爪に毒を塗っておいたんです」

リュウはガルーラを見ると、ガルーラは悪夢に襲われているかのように汗を流している。

どうやら毒状態になってしまっていたようだ。

「しまった、パンチ!!」
「ハピ、卵爆弾=I」

──ガルーラ戦闘不能。

「さっきのサンドパンののろさはそういう秘策があったのか……」

少し悔しそうにしながらも、凄く楽しそうだった。

ガルーラに謝罪とお礼を言ってボールに戻す。

「うし! 次はハナヒラ、お前だ!」

そう言って、ラフレシアを繰り出す。

ラフレシアをあまり見たことが無いルナはポケモン図鑑を開く。

「世界一大きい花弁からアレルギーを起こす花粉をオニの様にばらまく、か。かなり危険そうな相手ですね……」
「だろ?ギガドレイン≠セ!!」
「っ、卵生み=I」

威力の高い技に、回復を選ぶルナ。

ギガドレインは相手のHPを吸いとり、尚且つそれを自分のものにしてしまう。

厄介な技だった。

「回復に逃げただろ?日本晴れ=I」

少し不機嫌そうに言いながら、パーカーを脱ぐリュウ。

日本晴れ≠使うという事は──!

ルナは嫌な予感が背中を駆け抜けた。

「ハピ、歌う=I」
「やっぱり気付いたか。花弁の舞い≠ナラッキーの口を塞げ!」

ラッキーはラフレシアの花弁で口を塞がれ、歌う事を防がれてしまう。

「いくぜハナヒラ!ソーラービーム<Eウゥゥゥ!」

空しくも、ラッキーはラフレシアに一発KOされてしまう。

ルナは倒れるラッキーを見て、あらためてリュウの強さを痛いくらい理解させられた。

「でも、強い方ほど楽しい!!」

晴れやかな顔をしながら、次のボールをシュッと放つ。

ボールが開き、煙が出る。

ドサッ。

「!? ハナヒラ!」

突然、ラフレシアは何の前触れもなく、戦闘不能になっていた。

ラフレシアの花弁の部分には凍った跡。

ルナの傍らにはジュゴン。

「まさか……ボールが開いた時の煙に混じって冷凍ビーム≠放ったのか!?」
「ご名答、です」
「さすが、ポケモンと少し目を合わせただけで技を放てるだけあるな」

その言葉に、ルナは驚いたように身を乗り出す。

「なぜその事を!? 私自身、色々不明な能力で誰にも言っていないのに!」
「オレはロケット団三幹部の補佐として、情報収集してたんだ。オレの情報網、舐めんなよ?」
「どれくらい凄いんですか?」
「う〜ん、そいつの昨日の夕飯から、パンツの色までなんでもわかるぜ?」

からかうように、ニヤニヤしながら言う。

ルナの顔がみるみる内に、上から下まで赤くなっていく。

「それに、人間観察はオレの得意分野なんでね。見てればわかる。特にルナは──」
「え?」
「あっ、や、な、何でもない!!」

リュウまで、上から下まで赤くなっていく。

放置なジュゴンが尾びれでびたびたと床を叩く。

「わりー、わりー。いけ、コスモ=I」

先程、ルナを攻撃したスターミーが出てくる。

「(水vs水……)ゴンちゃん、冷凍ビーム=I」
「高速スピン=I」

スターミーはジュゴンの冷凍ビーム≠高速スピン≠ナ弾き飛ばしてしまう。

リュウは指をつき出す。

「10万ボルト>氛!!」
「は、はい〜!?」

思わぬ技に、ルナは避ける指示が出来ず、ジュゴンはもろに10万ボルト≠食らってしまった。

効果は抜群だ。

ジュゴンの体からは電気がパリパリと帯びていた。

とは言うものの、自分のタイプとはかけはなれたタイプの技の為、それほど莫大な威力は無かった。

「大丈夫!? ゴンちゃん!!」
「心配してる場合じゃねーぞ?スピードスター=I」

スターミーのコアから数多の星が放出される。

「──ゴンちゃん眠る=I」

ジュゴンは寝始めた。試合中というのを感じさせない位気持ちが良さそうだ。

「回復に逃げたみたいだけど、大切な事を忘れてんじゃねーか?」

まだジュゴンは眠り続けている。

「眠ったまんまだったら、タコ殴りだぞ?」
「大丈夫です」
「何を根拠に……──っ!?」

さっきから少しずつ感じていた寒さが、いきなり強くなった。

まさか、とルナを振り返って見ると、その口は弧を描いていた。

「ジュゴンというポケモンは寒さに強く、むしろ寒いほど元気になるんです」
「さっき弾き飛ばした冷凍ビーム≠ゥ!」
「それだけじゃありません。10万ボルト≠打たれた時も冷凍ビーム≠吐き出していました」
「ってことはジュゴンは──」

ムクリ!

リュウの予想通り、あまりの寒さに元気になったジュゴンが起き上がった。

ここまでジュゴンの生態を把握しているとは。

「さすが歩くポケモン図鑑だな……」

思わず感心してしまう。

「でも、負けないぜ! コスモ、ハイドロポンプ=v
「冷凍ビーム≠ナ凍らせて!!」

スターミーのコアから吐き出されたハイドロポンプ≠、ジュゴンは凍らせる。

ハイドロポンプ≠ヘ見事に吐き出された状態のまま凍らされている。

「よし、それを利用してやれ!高速スピン=v

高速スピン≠ナ、凍らされたハイドロポンプ≠フ上を滑っていく。

「ゴンちゃん、スターミーを目の前まで引き付けて!!」

ジュゴンは、スターミーが自分のぎりぎり近くに来るまで、ピタリとも動かない。

そして本当にぎりぎり近くに来て、

「今だ!吹雪!!」
「! コスモ!」

リュウはルナの意図にやっとこさ気付いた。

「吹雪≠ヘ本来、とても命中率が低い技。だからぎりぎり近くに来たときを狙ったのか……。ありがとう、コスモ」

スターミーをボールに戻して、次のボールを構えてニヤリと笑う。

「こいつは特別だ。ヒエン!」
「ウィンディ……!」

中国の言い伝えにある伝説のポケモンだけあり、とても美しく、威厳があるポケモンだ。

試合中なのにも関わらず、ついつい見とれてしまう。

「ゴンちゃん、冷凍ビーム=I」
「火炎放射=I」

冷凍ビーム≠ヘ炎の威力に消し飛び、そのままジュゴンに火炎放射≠ェ襲いかかる。

「ゴンちゃん!!」
「これで残りは三匹ずつ。今までは互角位だが、ヒエンは強いぜ」
「ええ。強いでしょうね。でも、私も特別なポケモンがいます」

そう言って、一つのボールを取り出す。

と、同時に赤い石も取り出す。

「は!? ま、まさか!!」
「その、まさかです。ロコ!」

まだロコンのロコがボールから出てくる。

人差し指と中指で挟んだ『炎の石』をロコンにかざす。

すると、ロコンの体は光輝き、めきめきと形を変えていく。

「ロコは、ロコンからキュウコンの姿に形を変えます!」

キュウコンになったロコは、黄金に輝く体毛と、9本の長い尻尾が二人を虜にしそうだった。

やんちゃだったロコは、人──ポケモンだが──が変わったように大人びていて、綺麗だった。

「炎同士? なに考えてんだ?」
「いえ、ただロコとヒエン君を戦わせたかっただけです」
「あら……」

拍子抜けしたように力無く、口をひきつらせながら呟いた。

「でも、きっとロコならヒエン君を倒せると思ったんです」

キュウコンは自分の主を見つめ、静かにうなずいた。

ルナも、キュウコンを信じ、うなずいた。

リュウは、それを見てルナとキュウコンの深い絆を理解した。

「なるほどね、納得。ヒエン、神速=v
「火炎放射≠ナ向かい打って!」

神速≠ニ言うだけあり、物凄いスピードでキュウコンへ向かってくる。

「ヒエンも火炎放射≠セ!」

お互いの火炎放射≠ヘ、押し合い競り合い状態だが、ウィンディは神速≠しながらのためそちらの方が威力は強かった。

火炎放射≠ヘ相殺し、消えるがウィンディはそのまま神速≠ナ突っ込んでくる。

「ロコ!」
「高速移動=v

ウィンディは高速移動≠ナキュウコンから距離を取る。

「(何か大きい技を放つのかも)ロコ、妖しい光=I」
「! 見ちゃダメだ、ヒエン!」

しかし、ウィンディは妖しい光≠まともに見てしまい、混乱におちいった。

リュウは思わず小さく舌打ちをする。

「しっかりしろ、ヒエン!」
「大文字(だいもんじ)!!」

大の字に炎がウィンディを襲う。

「(ここは、賭けるしかないか)ヒエン、高速移動=I」

成功すれば、大文字から逃げられる。しかし失敗すれば、自分で自分を攻撃してしまう上に大文字も受けてしまう。

危険な賭けだった。

ウィンディは、指示通り動こうと必死に頑張っているようだ。

しかし──

「ヒエン!」

ウィンディは自傷した上で、大文字を食らってしまう。

効果は今一つでも、まともに食らったので結構なダメージだろう。

「ヒエン、しっかりしろ! 惑わされるな!」

ゆさゆさと身体を揺さぶる。

しかし、ウィンディは目を回し、混乱から立ち直る事は無さそうだった。

その時、ゴッという鈍い音が響く。

次の攻撃の構えをしていたルナもキュウコンも驚いたようにそちらを見る。

どうやらリュウがウィンディの顔を殴った音らしいというのがわかると、尚更ルナは目を白黒させた。

「ヒエン。オレ達は辛い事や悲しい事、痛い事等を共に体験してきた」

ウィンディも目を見開かせる。

「しっかりしろ、ヒエン。お前なら耐えられる。……お前の力、見せてくれ」

その言葉に、ヒエンが鋭い目付きになり、真剣な顔つきでうなずく。

リュウはヒエンが意識がしっかりとした事がわかるとニッと笑う。

「うっしゃ!火炎放射≠セ、ヒエン!!」
「こっちも火炎放射≠諱Aロコ!!」

二匹の炎ポケモンから放出される火炎放射≠ェぶつかり合う。

今度は同じ状態での火炎放射≠フため、押し合い競り合いの時間が長く、なかなか相殺さえもしない。

そのうち、花火のように美しく相殺する。

「互角……って事か」
「です、ね……」

色んな意味でヒートアップする戦いに、二人は肩で息をしていた。

しかし、休むわけにはいかない。休みたくもない。

二人はまた先程と同じ構えをする。

『火炎放射!!』

二人の指示が重なる。

二匹の動きも、ほとんど鏡のように同じ動きをする。

同時に横に動き、まばたきをし、口を開けて火炎を放射した。

互いの火炎は、すれすれですれ違って相手を攻撃した。

「ロコ!!」「ヒエン!!」

──両者同時に戦闘不能。

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