「ああああああ!!」

ルナは階段を上っていた。とにかく上っていた。

ポケモンはボールに戻したため、ルナだけが疲れきっていた。

ルナはブルーが手を離した一分後に迷っていた。

「上っても、上っても、一番上に辿り着かない!? どうなってるの!?」

つい一人で叫んでしまう位、ルナはパニックにおちいっていた。

とりあえず、こういう道に強いイーブイとついでにピカチュウを出す。

「とにかく上に行きたいんだけど、どうすれば良いかな?」

すると、イーブイが小さなスイッチに気付いたようで、前足で指し示す。

「罠……とかじゃないよね?」

知るか。と言うように、イーブイがそっぽを向く。

本当になついてくれてるのだろうか……?

いや、

(私がイーブイを信用してないからだ)

ルナは黙って、小さなスイッチを押した。

ガコン。

何かが開くような音が響く。

どうやらルナの横の扉が開いたようだ。試しに  ドアノブが無いので  押してみる。

案の定、部屋に通じていた。

「暗い……。チュカ、照らし  

照らして、と言おうとした時、突然部屋の明かりが点き、急な明るさに思わず目を閉じてしまう。

目が慣れてきた頃に目を開くと、目の前には六匹のポケモンと少年が。

「いらっしゃい、ルナ」
「り……リュウ君  !?」

何でこんな所に。

そう言いたくとも、なかなか言葉が出てこなかった。

「どうしてこんなトコに、って顔だな」
「っ!?」
「改めて自己紹介させてもらうよ」

そう言いながらリュウはルナに近付き、ひざまずく。

「オレは、ロケット団三幹部補佐のリュウ」
  え?」

ルナの心がざわざわとざわめき始める。

頭の中に今までの色々なリュウの顔が、走馬灯のように駆け巡る。


『どうしたんだい、そこの可愛らしいお嬢さん?』


『いや、だって普通だったらそのまま通り過ぎるだけだし……。無用なバトルは必要無いと思うし』


『うわ、歩くポケモン図鑑みてぇ!』


『お前さ、余計な事に気が付き過ぎ。あんまり首突っ込むと痛い目見るよ?』


『リュウ……だ』


『いるのは黒い  


『……やっと、見つけた』


『……これ。受け取って欲しい』


『あっ……ありがとな。………ルナ』


「この先に進みたいってんなら、オレを倒していきな」

ルナの口はカラカラに渇いていた。

リュウの手持ちであろうスターミーの高速スピン≠ェルナの頬をかすめる。

「戦うの、戦わないの?」

すっかりリュウの瞳は光を無くしていた。

いつかも見たその瞳に、ルナは生唾を飲み込んだ。

「半端な覚悟だと痛い目見るぞ」

リュウの痛い視線がルナの胸を貫く。

「………しても……」
「……?」
「どうしても、戦わなきゃ、ダメですか」

ルナはとぎれとぎれに、泣きそうになりながら、自分の本心を告げた。

そのルナの言葉にリュウの瞳は光を宿し、大きく見開かれ、動きが止まる。

「私は、貴方と戦いたくなんか無い!!」

瞳から小さな水滴をポロポロ溢しながら、ルナは俯きながら言った。

「な、何でだよ! オレはお前の憎いロケット団なんだぞ!?」
「違う!」

リュウの言葉を、速答する。

何で、とリュウは額から汗を大量に流しながら動揺したように顔を歪める。

「私が許せないのは、私の両親を殺した奴で、貴方じゃない!!」
「な……!」
「貴方は本当は優しいんでしょう!?」

ルナはリュウの腕を掴む。

リュウの腕は汗ばんでいるのがパーカーの上からもわかった。

さっきよりも動揺しているようで、目の焦点が合わない。

「貴方はお月見山の時、私を乗せて空を飛び、中に入らせなかった」

ハッとしたようにルナを見る。

「なぜか? それはあの時、お月見山の中にはロケット団がいたから!」
  っ」
「『いるのは黒い  』。あれはきっと、『いるのは黒い装束の団体』だったんじゃないですか?」

お母さんに大切な皿を割ったのがバレた子供のように、リュウは身を縮こまらせている。

「それから」ルナはまた静かに語り始める。

「リュウ君は炎の石を汗がダラダラになるまで私を探して、その石をくださいました」
「……」
「なぜか? それは、ロケット団との最終戦に必要になると思ったからでしょう?」

リュウはズボンをシワが寄るくらいに握り締めた。

「……そうだ。だが、それがオレとなんて想像もつかなかったぜ」
「リュウ君……」
「いや、もしかしたら想像もしたくなかったのかもな」

目を伏せ、眉を下げて悲しい顔をしたリュウは立ち上がりルナを見すえた。

そして、息を少し吸うと、眉尻をあげて真剣な顔になる。

「オレは、お前が好きだ。だからこそ今は、ロケット団じゃなく、リュウとしてルナと真っ向勝負で戦いたい」

あまりに真剣な顔に、ルナは一瞬目をぱちくりさせた。

それからルナも真剣な顔で笑う。

「私も貴方を仲間として本当に大切に思っています。……お手合わせ願います」
「……いや、そう意味じゃ」
「え?」
「あ、いや、何でもない。……うん、わかった」

リュウはルナの鈍感さに肩を落としつつも、これからのバトルに心踊らせた。

外に出ている手持ちをボールに収める二人。そしてボールを一つだけ残して腰に付けた。

「負けたらここから出ていってもらう。それだけは、変えられない……」
「はい。リュウ君がボスに怒られてはいけませんから」
「そうか、悪いな……」
「それに」

ルナはニコリと満面の笑みになる。


「私は負けません」


ルナの異様に自信ありげな様子にリュウは少し拍子抜けする。

だがしばらく経つとニヤリと笑う。

「すげー自信じゃん」

互いに、得意気な顔になる。

その姿は敵同士とか正義と悪とかでは無く、ライバル同士に見えた。

『バトル・ファイト!』


敵≠好敵手
(貴方と全力で戦います!)


20121127


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