「なんで…ロケット団がヤマブキに…」
「見た通りだよ。オレたちとやつらとの最終決戦が始まるってことなんだよ」

今思えばちゃんと感じていたのかもしれない。

ロケット団との最終決戦を。

いつかは、きちんとロケット団と向き合って戦わなければいけないと。

今までのように交わったから戦うのではなく、自身の意思で戦いに行くのだと。

ルナの鼓動が高まった時、レッドが何か悪い事に気付いたように顔を真っ青になる。

「マサキの…転送システムで、博士にあずけた…オレの…ポケモン!!」
「!」

レッドは崩れた研究所にある、まだ正常に機能しているパソコンで素早く確認し始めた。

「…い…いない!! ブイ!!」
  !」

そんな、と口に両手を当て、目を見開いて後ろに後退するルナ。

続いてグリーンもポケットに手を入れたままパソコンで確認する。

「…オレのあずけたやつらは手つかず」

チラリと横目でルナを見る。

お前はどうだという事らしい。慌てて腰のボールを見回す。

「わ、私はこの六匹以外捕まえてないので……ボールが無くなってないので、大丈夫です」
「だろうな。どうやらレッド、ここが襲われた理由はおまえにあるってわけだ」
「……」
「グリーンさん、そんな言い方は!!」

ルナがそう言うも、フンと鼻であしらう。

「調子に乗って正義の味方づらしてるから、こうなるんだ」
「!」

その言葉にカチンと来たのか、レッドは目を吊り上げてグリーンに殴りかかる。

ルナは慌てて止めに入る。

「なんだと!」
「レッド君、止めて下さい!!」

グリーンはレッドが突き出した拳を手のひらで受け止め、強く握りしめる。

「いいか、レッド。よく聞けよ。ロケット団とはオレが決着をつける! おまえは手を出すな! ルナ、お前もだ!」
「な…!?」「え……!?」

グリーンの口から出た思わぬ言葉に、レッドとルナは驚いたように口を開ける。

それに対してグリーンは涼しげな顔だ。

「オレはロケット団が、ポケモンを売り買いしようと実験しようと知ったことじゃない」
「じ…じゃあおまえこそ手を出すなよ」

レッドがそう言うと、グリーンは清みきった空を仰ぎ見た。

「ここは何もない田舎町だ。なのにオレのおじいちゃんは、ここに研究所をかまえた。なぜだかわかるか?」

ルナはハッとして顔をあげる。

まだ幼く、心を閉ざしていた時に、温かい手で頭を撫でながら日向のような笑顔の博士が言った事を思い出した。

「オレとおまえが初めてあった日…。幻といわれるミュウがこの町にいた。なぜだかわかるか?」

  いいかい?

「無知なおまえは知らないだろうが」

  この町はね、

「ここは、世界で一番ポケモンが汚されていない場所だからだ」

  広い、広い世界の中で一番、ポケモン達が汚されていない場所なんじゃよ。

「マサラとは白! 汚れなき白という意味だ!!」

  マサラの意味は白、汚れなき白という意味じゃ。

「この町はオレの誇りだ。おじいちゃんをさらいこの町を汚したやつらをオレは許さない!」

「そういうことだ!」グリーンはリザードンで飛び去ってしまった。

「グリーン!」

レッドとルナはしばらく、グリーンが去った空を眺めていた。

風だけが吹く状態のこの場を先に壊したのはレッドだった。

「オレは手を出すなだって!? くそ! オレだってマサラのトレーナーだ!!」
「レッド君!」

ルナはプテラで空を飛び立つレッドを目で追う事しかできなかった。

  マサラのトレーナー。

ルナが住んでいる所はマサラとトキワの境目。マサラのトレーナーとは言え無かった。

マサラのトレーナーで無ければ、手を出してはいけないのだろうか?

……いや、

「私だって、マサラタウンが好きです! 博士だって、レッド君だって、グリーンさんだって、マサラのポケモンだって、大大大大好き!! だから  

出来る限りの努力と手助けはしたい。

そう心の中で呟きながら、ルナは自分の家へと走り出した。


* * *



レッドは、下がダメでも上のバリアはうすいだろうとプテラで攻撃するも、破れそうな様子は全く無かった。

どうしたものかと思った時、遠くから鳥が羽ばたいた音がする。

不思議に思い、そちらを向くとルナが見慣れないピジョットで飛んでくる。

「レッド君!」
「ルナ、お前、そのピジョット……」
「ああ、このピジョットは家に住み着いたポケモンの一匹です」

なるほどとレッドは納得したように呟く。

「私は地上から何かわかる事が無いか調べてきますね」
「おう!」

そう言ってルナはマッハの速度で、地上へと降り立った。

ルナはピジョットに手を振り、野生へと帰した。

「さて。何かわかる事は無いでしょうか……」

ぺたぺたとバリアを触るが、少しパリパリと電撃のような痛みが生じるだけで何もわからない。



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