「あれがグレン島!」

ふたご島から一夜明けて、ルナはグレン島の近くに到達した。

やはりジュゴンになったら海を渡るのが断然楽になった。

スピードも乗り心地もグンとアップした。

グレン島への道は、ふたご島に向かう道よりも入り組んでいて大変だった為、進化していなければきっと着く頃には深夜だったに違いない。

「よっこらせ、っと」

親父か。

そうピカチュウが冷たい目で見るが、ルナは全く気付いてない。

ピカチュウは呆れてルナを見つめていると、ルナの顔に驚愕が浮かぶ。

「何……これ」

一面焼き野原になっていた。

木が黒く焼き焦げていて、表面からはまだ真新しい煙があがっていた。

まるで炎対炎の戦いを繰り広げたような……いや、水も多少繰り出した跡がある。

「ルナ!?」
「………え」

声の方を見ると、レッドが少し薄汚れて立っていた。

側にはあまり見かけないプテラ。

「レッド君、お久しぶりですね!」
「元気だったか!?」
「ええ、もう!」

ルナは急いでボールからポケモンを出す。

「見て下さい! 六匹揃ったんですよ!」
「おー! オレもだぜ!」

レッドもボールからポケモンを出す。

ボールからは、ピカチュウ、フシギソウ、ニョロボン、カビゴン、イーブイ、ギャラドスが出てくる。

「……六匹越えてないですか?」
「プテラが手に入ったのがついさっきだったんだよ!」

「ああ、そうなんですか」と相槌を打ち、ポケモン達に目線を移す。

ルナのイーブイ、エヴォがレッドのイーブイ、ブイに駆けていく。

そして、感動の再会のように寄り添い合った。

「ブイ!?」
「……このイーブイも実験台だったんです」
「……!」
「と、言ってもなりかけただけですけどね」

ルナは二匹のイーブイの関係を知る限りでレッドに伝えた。

ルナのエヴォはレッドのブイと共に研究所を抜け出した事。

その途中で二匹ははぐれてしまった事。

おそらくエヴォはブイの改造された瞬間を見て、人間不信になってしまった事。

「そんな事が……」
「なんとか私にはなついてくれてるんですけどね」

人に威嚇するイーブイを思い浮かべ、悲しそうに眉を下げるルナ。

その時、ギャラドスに気付く。

「この子……ギャラちゃんですか?」
「あ、ああ! カスミに貰ったんだ。……よく分かったな?」
「よくギャラちゃんと遊びましたから。それに、だいたいポケモンの区別はつきます」
「へー、凄いな!」
「そ、そんな凄いなんて」

今度はレッドがルナのポケモンを眺めた。

「よくルナが捕まえられたなー」
「………あれ」
「あれ?」

そういえば、とルナは思考を過去に巡らせた。

レッドが不思議そうにルナの顔を覗き込む。

「私………捕まえてないです」
「は」
「エヴォはなだめて、しばらく後にボールに自分で入ってくれました。ハピも同じようなものです。ゴンちゃんはカスミにもらいました……」
「お前……ある意味凄い能力だな」

これからもルナは捕獲が下手くそのままなのだろうなと思ったレッドだった。

「日が暮れてきましたけど、マサラに行きますか?」
「んー、……いや。今から行ったら夜に海を渡る事になる。それは危険過ぎる」

レッドはルナと共に行く事を考慮して、野宿を決定した。


* * *



レッドがグレン島のポケモンセンターにイーブイを預け、ルナの元に行くと良い匂いがしてくる。

携帯式の鍋に芋料理がグツグツと煮立っていた。

「あ、丁度良かった! 味見をして頂けますか?」

フリフリのピカチュウが刺繍されたエプロンを着たルナがお玉を持ってこちらに微笑みかける。

正直……可愛い。

レッドは首を振り、小皿のスープをすする。

「ん! 旨いぜ!」
「ホントですか!? 良かったー」

そう笑い、スープを普通の皿に盛り始める。

レッドは気遣いでご飯を盛る。

なにしろルナはポケモン用のご飯も作っているのだ。しかもレッドのポケモンにも。大変だろうなとレッドは思った。

「はい。皆の分も出来たよー」
「すげーよな、12匹分の大量のご飯を作るなんてさ」
「いえ、慣れてますから」
「『慣れてる』……?」

「あ、いや」何か弁解しようかと思ったが、途中で止め、正直に食べながら話す事にした。

とは言え、自分が金持ちだと思わせるフレーズは抜いているが。

「私の家の庭にはポケモンが沢山集まっているんです。いずれも野生です。
 本当だったら野生に食べ物を与えてはいけないと思うんですけど……何しろ私の両親が普通にあげていたもので。
 野生のポケモンに食べ物を与えるのが癖のようになっているんです」

ルナが顔をほころばせて語る中、レッドは静かにスープをすすっていた。

「よっぽどルナの家は良い所なんだな!」
「?」
「きっとルナの両親が良い人だからだな!」




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