それにしても、海は目印が無く、ぐるぐるとその場で何回か回ると自分がどこに浮かんでいるのか全くわからなくなる。

ただ、カスミのパウワウは何度もこの海を渡った事があるからか、迷わずに進んでいる。

問題は、

「も、もう少しスピードを上げれないかな、ゴンちゃん」

進化前のパウワウで海を渡るのは無謀≠ニいうものだった。

しかも、靴と靴下を脱がなければ、自分の足が浸かる為、乗れなかった。

どうしてカスミはわざわざパウワウをくれたのだろうか。

当のパウワウはこちらを向き、首をかしげた。

これ以上スピードは上げれないらしい。

一つ溜め息を吐き、のんびりと海の水を眺めているしか無かった。


* * *



着いた時にはもう夕方になりかけていた。

「お疲れさまー、ゴンちゃん」

さすがにパウワウ自身の体力的にもきつかったらしい。

パウワウはぐったりとしている。

まぁ、疲れたのはお互い様だが。

「さて。今日はふたご島で野宿になりそーだから……」

どこを寝床にしようか迷っていた。

野宿は旅をしてから当たり前になっていた。

最初は全く馴れない事で、色々大変だったが、今では普通にテントやら何やらが出来る様になっていた。

辺りをキョロキョロと見回していると、遠くから何か神々しいものが飛んでくる。

ポケモンなのだろうか?

ルナはバックから双眼鏡を取り出すと、それでポケモンらしきものを見る。

「!」

体は冷たい色に包まれて、長い二本の尾をヒラヒラとなびかせ、こちらをその鋭き瞳で見つめていた。

そのポケモンは  

「伝説の鳥ポケモン、フリーザー……!」

確かにふたご島にはフリーザーがいるとは聞いた事はあるが、なぜこっちに真っ直ぐ向かって来ているんだ。

しかも後ろには黒づくめの男達、ロケット団が追いかけているでは無いか。

ルナはあたふたとするが、なすすべも無くフリーザーが自分の目の前に来てしまった。

フリーザーと目が合う。

その瞬間、自分とフリーザーだけの空間になったかのように、何の音も聞こえなくなり、フリーザーしか見えなくなる。

自然と額には汗。反射的に生唾を飲む。

嗚呼、心臓の音が五月蝿い。頭に直接響いている様に感じる。

目を逸らしたいのに、逸らす事が出来ない。

あれ、そういえば一回見たことが  


「おい、そこのお前!」


その言葉に、現実に戻されたようにフリーザーから目を逸らす。

フリーザーはルナの後ろに隠れる。

(えぇ? ち、ちょっと……)

当たり前だが、ロケット団はより眉を寄せてシワを刻む。

ルナがフリーザーと関わっているのだと勘違いしたのだろう。

「……妙に、フリーザーになつかれているようだな?」

勘違いです。とは、とても言えず。

「………貴方達はフリーザーを捕まえようとしているんですか?」
「そうだと言ったら?」

ルナはボールを構える。

「阻止します」

もとからそのつもりだったのか、ロケット団は間髪入れずにポケモンを放った。

その動作を見逃さず、ルナも素早くボールを放った。

「チュカ! サン! ゴンちゃん!」

相手が三匹の為、ルナも三匹出す。

こうして相手の数に合わせれると、自分は前よりポケモンを持った気になる。

相手のポケモンはベトベトンとゴルバットとマタドガス。

だからなのか、相手はルナの三匹を見て笑いだす。

「な、なんですか、いきなり  
「なんだそのちっこいのは! 踏み潰してくれるわ!」

ロケット団のポケモン達が一斉に攻撃してくる。

ルナは動かない。

それをスカーフの男は、怖くて動けないのだと思い、口元は弧を描く。

ポケモン達が攻撃を繰り出し、辺りは砂ぼこりに包まれた。

「はっはっはっ! バカめ!」
「………バカ? バカはどっちですか?」
「何を言ってるんだ。お前に決まって」

刹那。スカーフの男の目の前に戦闘不能のポケモン達が倒れこむ。

  ロケット団のポケモンが、だ。

「そんな……バカ……な……」

スカーフの男があまりの衝撃に後ずさる。

「そして私のポケモンは、その経験値を体に取り入れ」

メキメキと、サンドとパウワウの体が光り輝き姿を変えていく。



  進化します」



サンドはサンドパンへ、パウワウはジュゴンへと形を変えた。

ルナは自分のポケモンの成長を感じ取っていた。

だから、ロケット団のポケモンを倒せば進化する事は知っていた。

カスミもパウワウがすぐに進化する事を知っていたから、ルナにパウワウを引き渡したのだ。




[ back ]
×