「だから……私と、来て、くれる?」

依然として笑顔だが、少し不安そうに声が震えている。

そんなルナを、微笑ましく見つめた後、ラッキーはその手を取った。

「!」

ほんのり顔を朱色に染めて、目を丸くする。

ラッキーはニッコリとしているが、ルナは混乱した様に立ち往生していた。

そしてしばらくたって、自分を指差し、かすれる声で言った。

「私……で、良いの?」

何を今さら、という様にくりくりとした瞳でルナを見つめるラッキー。

「……っは、良かった……」

ぺたんとその場に腰を下ろして、安心した様に幾度か深呼吸する。

ラッキーが心配して駆け寄る。

「………ラッキー、あのね、私  

ぐうきゅるるるー!

ルナが何かを言いかけた時、大きな腹の虫が鳴る。

ロコンとイーブイを見るラッキーだが、二人に首がちぎれそうな位に首を横に振られた。

じゃあ誰が、と思っているとルナがこれでもかという程に赤面していた。

「……お腹、空きました………」

ラッキーは少し目を見開いた後、ルナに卵を渡した。


とびきり、形の良い卵を  


ルナも受け取って向日葵のような笑顔になる。

「じゃあ……ちょっと早いけど、お夕食にしようか」


* * *



ホテルに着いたルナはなぜか疲れた顔をしていた。

その真相がわかる前に、ルナはホテルのチェックインをしに行く。

「あのー、泊まりたいのですけど」
「はい、かしこまりました。一名様ですね?」
「はい。その他ポケモンです」
「では105号室に……、……?」

突然、卵が目の前に差し出され、不思議そうに目をしばたかせる女性。

もちろん、ラッキーだ。

ルナは素早くそれを奪い取る。

また〜、その誰にでも渡そうとする癖を直して下さい!!」

ラッキーが申し訳無さそうにうつむく。

このやり取りは先程から幾度も繰り返している。

悪気が無い事はわかるのだが。いや、それが逆に厄介だが。

ホテルに着いたルナが疲れた顔をしていたのはこれが原因だった。

指定された部屋に入るのも、ラッキーの癖があらぶり、相当の時間を要した。

「はぁ、疲れた……」

ベットに座り込むと、さっき自分が言った言葉を思い出した。

『じゃあ……ちょっと早いけど、お夕食にしようか』

現在の時刻、8時43分。どこが「ちょっと早いけど」なんだ。

そう思うとまた溜め息が口から出る。

すると、ラッキーの非常に申し訳無さそうな顔が目に入ってくる。

なんだかこっちが申し訳無い気持ちになってくる。

ルナは淡い笑みを浮かべて、ベットから立ち上がる。

「よーし、じゃあとびっきり美味しい卵料理作ってあげます!」

そうラッキーにウインクをすると、ラッキーは向日葵の様な笑顔になった。

腹ペコなロコンとイーブイもとても嬉しそうに鳴き声をあげた。


笑顔にさせる卵
(貴女の心がこもった卵、美味しかった)


20121114

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