他の人から聞いた話だった。

ラッキーは形の良い卵を他の誰にも渡したくなくて、欲しがるポケモン達から卵を守っていた。

当然だがラッキーというのは珍しいもので、ラッキーの卵生み≠ヘ貴重なものだった。

とても栄養価が高いその卵を、誰もが欲しがっていた。

そんな時、軽く栄養失調になりかけのポケモンがいた。

そのポケモンは果物を一切受け付けない体質だった。

そしてそのポケモンも、当然、ラッキーの卵を欲しがった。

しかし、そのポケモンは他のポケモンと違い、無理矢理取ろうとする事は無かった。

ラッキーはそれを知っていた。

ある日、そのポケモンはとうとう栄養失調が酷くなりフラフラとおぼつかない足取りになった。

ラッキーは少し迷った様子もあったが、綺麗な真ん丸い卵はもう出ないかもしれないと脳裏によぎり、やっぱり出し惜しみをしてしまった。

するとそのポケモンはラッキーの目の前で力無く倒れ込んだ。


栄養失調が絶頂に達したのだ  


ラッキーは絶望した。

あの時、卵を出し惜しみしなければあのポケモンは助かったのだ。

栄養満点の卵を食べさせてあげればもしかしたら、いや絶対にあのポケモンは助かり、そして美味しいと笑顔を見せてくれただろう。

なのにどうして出し惜しみなんかを。

ラッキーは自分を攻めた、攻めて攻めて、心が疲れはてる位に攻めた。

それからは、ポケモンが変わったように他のポケモン達に卵を分け与え始めたのだ。

そう、あの時の事を二度と起こさない様に  

「……」

ルナは園長の話を聞きながら、切ない表情で手の中のマグカップにはられた珈琲が揺らめくのを見つめていた。

「……今も」

のろのろとルナの口が動く。

「閉鎖した今も、他のポケモン達に卵を分け与えねばと、使命感がラッキーの中にはあるんですね……」
「恐らくそうじゃろう……」

園長も、うつむいてマグカップの中の珈琲を見つめている。

しばらく息苦しい沈黙が続いた。

その沈黙を破る様に、ルナは珈琲の残りを一気飲みすると、思いきり強くコースターに置く。

ガチャンという音に、園長はビックリした様に立ち上がったルナを見上げる。

ルナは何か決意した様な、強い瞳を宿していた。

「私、意地でもラッキーを仲間に入れます!」

園長はうなずくのに数秒はかかった。


* * *



ルナは夏に咲く元気一杯の向日葵の色の髪を揺らして、真っ白なリボンを結び直した。

その身体は蜂蜜色に溶け込んでいた。

そう。時刻は既に日が落ちかけた夕方になっていた。

彼女はロコンとイーブイを見て、少し申し訳無さそうに眉を下げる。

「……ごめんね。少しの辛抱だから」

二匹は気にするなという様に、首を横に振る。

息がぴったりで、何気にこの二匹は似たもの同士なんじゃないかと思うが、今はそれどころじゃない。

一人と二匹はラッキーのもとへ向かった。



やはりラッキーはサファリの前にたたずんでいた。

サファリパークは、もう、開くことは無いのに  

園長の話を思い出し、ルナは悲しくなり目を伏せた。

すると、ラッキーはこちらに気付いた様で嬉しそうに短い尻尾を揺らし、近づいてきた。

それを見たルナは強い眼差しでラッキーを見る。

そして薄く笑った。

当然ながらラッキーは不思議そうに体を傾けている。

「見てください! この二匹は飢えていますよ!」

ラッキーは目を見開く。

確かに先程からキュルキュルと小さな音が聞こえてくるが、それは二匹のお腹の音だったのか。

ラッキーは卵を渡そうと、

「ああ、でもすぐにこの町から出ていかなきゃいけないんですよねー」

ルナはラッキーの行為を遮る様に、わざと大きい声で言う。

もちろん、ラッキーはおたおたして困っていた。

「このままじゃあ、二匹は飢え死にだー」

その言葉にラッキーはびくりと身体を強ばらせる。

「……ラッキーが来てくれたら、この二匹は助かるのにな〜」

「え?」と言いたげに鳴き、ルナを見る。

ルナはニッコリと笑顔でラッキーを見つめている。

ラッキーはサファリとルナを交互に見る。

「……サファリは、もう、閉じちゃったんだよ」

身体が震え始めるラッキーを見てみると、その瞳には涙がうかんでいた。

やはり、ラッキーは今までサファリが閉じた事を認めたくなかったのだ。

そしてサファリのポケモンのその後がどうなるのかわからず、いつまでもサファリの前に立っていたのだ。

「他のポケモン達は野生に帰ったよ」

笑顔で、それでいてラッキーの心を見透かす様に覗き込んでいる。

「野生の方が、ポケモン達にとって充実した環境だよ。大丈夫」

その事実を知っている様な口振りで話すルナに、ラッキーは不思議そうに見つめる。

その時、ルナの手がさしのべられる。



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