ルナは現在セキチクシティのサファリパーク前にいた。

ただ、何をするでもなく突っ立っているだけだが。

わきにはイーブイのエヴォとロコンのロコ。同じく何をするでもなく大地に四つ足で大地を踏みしめていた。

ルナはサファリの扉の張り紙を見て呆然とした顔で言った。

「サファリパーク……何で入れないんですか!?」

そう。張り紙には『只今諸事情により入れなくなっています』と書いてあった。

それを楽しみでセキチクまでの長い道のりをひたすら歩いたというのに!

まぁ、真実としてはサファリのポケモンを赤い少年がほとんど捕まえてしまったからなのであるが  

涙目で訴えるが虚しく風の音にかき消されてしまった。

イーブイとロコンは「諦めろ」という顔でルナを見上げている。

「あなた達はこの風のように冷たいですね……。わかりました、諦めますよ、グスン」

引き返そうと振り返ると、ピンクの大きく柔らかな物体にポヨンとぶつかる。

「うあぅ!?」

いきなりの事に、変な悲鳴をあげる。

鼻を擦りながら上を見上げると、目の前が卵でなおさら混乱を煽った。

「た、たま、たまたまたまご!?」

パニックになったルナは、卵という単語をただひたすら幾度も繰り返していた。

その時、卵の後ろからヒョッコリとピンクのニコニコと満面の笑みでルナを見つめる物体が出てくる。

「あ、ラッキー…………ってラッキー!?」

ラッキーなんて珍しいポケモンがどうしてこんな所に。

それこそ、見つけただけでラッキーなのに。

もしかしたらサファリのポケモンなのかもしれない。

そう思い、ラッキーの横をすり抜けようとすると、ラッキーから服の裾を掴まれた。

「え、えーっと、……なんでしょう?」

しかしラッキーはニコニコと笑うばかりだった。

イーブイとロコンに目配せするが、二匹も不思議そうに首をかしげてくる。

困っていると、ラッキーはルナの目の前に卵を差し出してくる。

「……食べろと?」

するとラッキーはうなずく。

あまりの出来事に目をひんむいてしまう。

当の本人  人では無いが  は、そのルナの表情に疑問を抱いたように体を斜めに傾ける。首をかしげたいんだろうか。

それにしても、この卵は生卵だろうか。だったら、すぐに食べるなんて不可能では無いか!

ルナは途方に暮れていると、ラッキーはいつまでたっても受け取らない事に悲しい表情になる。

ラッキーの瞳が潤み始める。

それを見たルナは、わたわたと焦る。

そしてラッキーの持っている卵を急いで受け取る。

「わぁ、ありがとう! すごく嬉しい!」

いっそ清々しい位にわざとらしく大きい声でハッキリと言うルナに、ラッキーは顔をほころばせる。

あまりの可愛さに胸が苦しくなった。

完全に緩みきった顔のルナを見て、ロコンとイーブイが呆れ返った顔で見る。嫉妬が含まれていない事も無いが、ここまで顔が緩みきっていると呆れるしかない。

「そ、そういえば、あなたはサファリパークの子なの?」

ラッキーが少し躊躇った後、ぷるぷると体を横に動かす。

「……?」

ルナはラッキーの態度に違和感を感じ取った。

ラッキーがうつむいて浮かない顔になってしまった。

まさか、と思いラッキーに尋ねる。

「帰る所が、無くなったの?」

ラッキーは小さくうなずく。

「そっか……」ルナは少し寂しそうに呟いた。

それから、ふっと優しく笑う。

「じゃあ、私についてくる?」

優しく笑いながら話しかけると、またぷるぷると体を横に動かす。

友好的な笑顔を浮かべていたラッキーが、まさか断るとは思ってもみなくてルナは驚いた顔をする。

「……何で?」

ラッキーは少し気まずそうにサファリパークをチラチラと見る。

何かサファリに思い入れでもあるのだろうか。

しかしここまでくると、なにがなんでもラッキーを仲間に引き入れたいと懇願してしまう。

「……ちょっと待ってて下さいね!」


* * *



「なるほど。キミの言いたい事はわかった」

ルナはサファリの園長にラッキーを仲間に入れたいと申し出たのだ。

「こちらとしてはかまわん。サファリは閉鎖しておるしな。ただ……」

口元の白髭を弄りながら、暗い顔をする。

園長の様子を伺うようにルナが覗き込む。

「ラッキーはそれを望まんと思う」
「それはどういった訳で……?」

深い深い溜め息の後で、園長は珈琲を一口含むとラッキーの過去を語りだした。

「ラッキーは、今では卵を誰にでも渡そうとする世話好きじゃがな、昔は卵を大事にしてしまって誰にも分けんかった」
「では何故今は  ?」
「昔、小さな事故があってな……」



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