ルナは今、セキチクシティに向かっていた。

ただ、ルナは自転車を持っていないので、遠回りをしている所だった。

簡単に迷子になりそうになるが、そこは意外と地理に強いイーブイが手助けになった。

間違った道に行こうとすると、イーブイが服を引っ張って教えてくれるのだ。

そんなこんなで、一人と四匹になったルナの旅は順調に前へ進んでいた。

「これで半分位ですかね、セキチクまで」

イーブイに言わせれば、なぜタウンマップを見ているのに道を間違うのか理解不能だった。

そう思っている所に、分かれ道があった。

「う〜ん、………こっち!」

右を選んだ。

しかしそっちに行くと、もれなく紐なしバンジージャンプをする事になる。

慌ててイーブイは左へ行くように引っ張る。

「わとと。……こっちかぁ。ありがとう、エヴォ」

当然だ、と言うように少し胸を反らせて威張る。

そんな所も可愛いな〜、と眺める。

その時だった。

急に前方から熱気を感じ始めたのだ。

前から炎ポケモンが迫っているかのように。

重たい足音も聞こえてきて、その炎ポケモンは走っている事がわかる。

だんだん前方に小さくポケモンが見えてくる。

四つ足ポケモンだ。

そう理解すると同時にそのポケモンが目の前に迫って立ち止まる。

いきなりの事に声も出なかった。

ウィンディだった。

その背中には誰か乗っていた。

しかし、フードを被っていて顔はわからなかった。

ただそのウィンディと背中に乗っている人に見覚えがある気がした。

ルナが立ちすくんでいると、フードの人がウィンディの背中から飛び降りた。

そしてルナに近付き、フードに手をかけた。

「……やっと、見つけた」

フードはするりと落ちた。

「あ! ……リュ、リュウ君!?」

驚いて指を指すと、リュウは額に汗を流しながら爽やかな笑顔を浮かべる。

なぜかその笑顔を見て、胸の奥が熱くなるのを感じ取った。

「という事は、そのウィンディは……」
「……ああ、ヒエンだよ」
「わぁ〜、大きくなりましたね!」

子供の成長に驚く近所のオバチャンの如く、感心する。

「……これ。受け取って欲しい」

リュウは未だに額に汗を流し、苦し気な息を口から出しながら、赤い石をルナに手渡した。

ルナはそんなリュウを訝しげに思いながら、赤い石を見た。

「炎の石……?」

なぜこんな珍しい石を渡すために、彼はこんなにも必死になって走ってきて汗を流しているのだろう。

リュウはそんなルナに気付いてか、フードを被ろうとする。

しかし、被る前にひんやりとした物がリュウの額に当たる。

ルナのハンカチだった。

それはとても可愛らしい生地で、なんだか良い香りが漂っていて、そんなハンカチがリュウの額の汗をペタペタと拭った。

ハンカチで汗を拭うルナの顔は儚げで、リュウの心は落ち着かなかった。

どうしてそんな顔をしているのだろう。

「貴方はいつもそうです」
「………え」

近すぎる距離。

ルナからする甘い香り。

ルナの今にも泣きそうな顔。

その全てに、リュウの心音は速まり、先程とは別に息が苦しくなる。

「貴方はいつも私に何かを隠しています。いつも遠回しな言い方で。私は貴方が苦手です」

その言葉に心が絞めつけられる。

「でも」

リュウは顔を上げると、ルナは変わらず儚げな顔だが、微笑んでいた。

「貴方が心優しい事は、わかります。どんな隠し事があっても、私に優しくしてくれます」
  っ」
「きっと貴方は不器用な人です。その人の為だと思ってやった事が空回りするような人です」

顔が熱くなり、さっきから心臓がうるさかった。

確かにリュウは人への対応といったような事には不器用で、いつも相手を怖がらせたり、嫌な思いばかりをさせてきた。

もっとも、リュウは隠さなければいけない事が沢山あって、人と話す時は嘘ばかりを吐かなければいけなかった。

それはどんなに辛かろうが、話してしまいたい衝動に駆られても、吐き通さなければいけない事で。

そんな葛藤が誰にもわかってもらえなくて。すごく寂しくて。

まさかそれを見抜いたのか、この少女は  

リュウは驚いて目を見開いてルナを見る。

ルナの儚げな微笑みが天使の様に見えて。

どこを向いたら言いかわからずに、視線をさ迷わせる。


「私は、貴方の嘘や隠し事も、受け入れます」


嗚呼、この少女はなぜこんなにも胸が熱くなる様な事を言うんだ。

自分が女の子だったら、きっとルナの胸に躊躇いも無く飛び込むだろう。

だがリュウは男だ。そう簡単にルナの胸に飛び込もうだなんて恥ずかしくて思えなかった。

ルナはリュウから離れると、リュウを見てまた笑う。

リュウは途端に恥ずかしくなり、急いでフードを被り、ウィンディに飛び乗った。

「あっ……ありがとな。………ルナ」

初めて名前をリュウから呼ばれ、驚いたルナは顔を上げた。

しかし、リュウの姿はもう無く、木々や空などの自然の風景だけが目に映った。

時間差で押し寄せてくる歓喜に、ルナの顔がほころぶ。

なんだかリュウを好きになれた気がした。


嘘に包まれた少年の悲しみ
(彼はきっと優しい人)


20121104

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