ルナが仲間にしたイーブイは改造されて『いない』方のイーブイだった。 すると、もう片方のイーブイは当初の予定通りレッドが捕まえている事だろう。 それも気になるが、まずはエリカの所に行った方が良いんだろうか。 エリカの所に行って、イーブイは自分が引き取ると言わないといけない。 「あ、そうだ。ニックネーム付けようか」 そう言うと、イーブイは首をかしげる。 こういう仕草や、他のポケモンと少しずれた所が自分を見ているようで不思議な感じだった。 「ふっふっふ。ニックネームは仲間の象徴なのだよ!」 ピカチュウ達が何威張ってんだよ、みたいな顔をしている中、イーブイは純粋に目をキラキラ輝かせる。 「そうだなぁ。イーブイっていうと進化ポケモンで三種類のポケモンに進化する可能性をもつ珍しいポケモンだよね〜」 進化ポケモン、進化……とぶつぶつ呟く。 「進化は英語で『evolution』だから……」 イーブイの瞳の輝きが一層強まる。 満面の笑みでルナはイーブイと目線を合わせる。 「『エヴォ』はどうかな?」 イーブイ イエスという意味だった。 それを見て、ルナは勢い良く立ち上がった。 「じゃあ、エリカのもとへ行こうか」 * * * エリカのもとへ行くと、彼女は気持ち悪い位にご機嫌だった。 聞くと、レッドと対戦したそうだ。 「へえ〜。どうだった?」 「ふふ。貴女に負けない位、強い心と優しい心を持っていましたわ」 「さすがはレッド君」 見事に改造されたイーブイを守ってみせたという事か。 彼なら大丈夫だとは思ったが、エリカの話を聞いて安心したルナだった。 すると、エリカはルナの陰に隠れているイーブイに気付いたようだ。 「まさか、そのイーブイ……」 「そう。あの改造されていないイーブイ」 「すごく怯えてますわ……」 「……うん。どうやら心の傷が深いみたいで」 眉を寄せて悲しげな顔をしながら「すっかり私にはなついてくれてるみたいだけど、ね」と付け足す。 エリカが言うには、改造されたイーブイは逆に心の傷はさほど深く無いのだとか。 もちろん、体の負担は決して軽くないらしい。 「目の前で改造された所を見たのかな……」 「ありえますわね……」 辛そうな、張り裂けそうな顔をするルナの手の甲をイーブイが舐める。 どうやら励まそうとしてくれているらしい。 自分も辛いくせに イーブイの優しい行為に、思わず目頭が熱くなり、意識的に瞬きを繰り返す。 いけない。自分がイーブイを守ると言ったのに、励まされては情けない。 ルナはイーブイを撫でてあげる。目を閉じて気持ち良さそうだ。 「すごいですわね……」 「へ?」 「私にはあんなに威嚇していたイーブイがここまで身を委ねるなんて……」 エリカが目を細め、優しく微笑む。 「ルナの温かい心を感じたんでしょうね」 ルナは恥ずかしそうに、顔を赤くしてうつむく。 「温かい心なんて……、ただ私とこのイーブイが似た者同士なだけです……」 自分とイーブイの憎しみの矛先も、独りで抱え込む所も何もかも似ていて。 イーブイは自分の生き写しの様で。 このイーブイを助ければ、自分も助けられる気がして。 そう思うと、イーブイを助ける行為はただの自己満足なのかもしれない。 ルナは気まずくなり体を縮こませて、より深くうつむく。 エリカはそれを見て、 なでなで。 まるで子供に対してする様に、ルナの頭を撫で回した。 最初は振り払おうと思ったが、顔を上げると優しいお母さんの様に笑っているエリカがいて。 そのままされるがままに撫でられていた。 * * * 真っ白なリボンにレインボーバッジを付けて、ルナはエリカ邸の玄関をくぐった。 「そのイーブイは貴女のものですわ」 「……私がロケット団に狙われると思ってるんでしょう?」 未改造のイーブイならあまり狙われる事は無いとは思うが、やはり危険には違いないだろう。 しかし、ルナはそれでも良かった。 イーブイさえ笑っていれば。 「大丈夫。私は弱くないから」 その言葉には強くもないという意味合いもあった。 安心できないルナの言葉に、エリカはそれでも信じなければいけないと心配になる心をぐっと堪えた。 「……頑張って下さいね」 いつもの微笑みでルナを見送った。 母親のようなぬくもり (なんだか妙に気恥ずかしくなってしまった) 20121104 ←|→ [ back ] ×
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