ルナがしばらく、瞬きを繰り返す。

すると突如、耳までまんべんなく林檎の様に赤くなる。

それを見たエリカが優しく微笑む。

「そうなんですわね?」
「違っ、違います! これはなんと言うか……」

癖で敬語が出るくらいに必死に、そして恥ずかしそうに取り繕った。

  って誤魔化さないで!」
「ふふ。可愛くて、つい」
「つい、じゃないよ。どうせカスミとかからレッドの事を聞いてて、試そうと思ったんでしょう?」

そう言うとエリカの笑みが消える。

どうやら図星の様だ。

カスミとエリカ、そしてルナは家の関係上昔からの仲で、仲が良いのだ。

エリカはぱちぱちとささやかな拍手を送る。

「すごいですわ、正解です」
  なんて、本当はあまり私に話したくない事が含まれてるんでしょう?」
「っ」
「イーブイ。それが……ロケット団関係、とか」

眉をひそめて、エリカから視線を反らし、辛そうな表情で言う。

エリカは先程より困った顔で微笑む。

「頭が良いというのも困りものですわね」
「そうだね。気付きたくも無い事を気付いちゃうんだもん」

ルナと一緒に辛そうな顔をするエリカだが、途中で何かに気付いた様な顔をする。

「でも色恋沙汰には疎いですわよね。しかも、自分の事だけでなく人の事にも」
「え、そうかなあ?」
「他の方が気の毒ですわ」

「何でっ!?」と驚いた様に言うと、エリカはやれやれと首を振る。

やはりこの少女には色恋沙汰の『い』の字もわからないらしい。

「とにかくっ、イーブイとロケット団はどう関係あるのか教えて欲しいんだけど」

なぜ知って傷付く事がわかっているのに知りたがるのだろう。

それがこの子の強い所かもしれない。

そう思うと心が鷲掴みにされた感覚に陥る。

「……わかりましたわ。お話しします。しかしどうせならこことは別の所で」

ルナはエリカの駕籠に乗り、一度エリカの家に向かう事になった。


* * *



花の良い香りがする部屋に来たルナは、いつもより少し緊張した面持ちでエリカが指定したソファへ座った。

エリカはテーブルの上に自分の分とルナの分の紅茶を置いた。

香り的にダージリンだろうか。鼻をくすぐる良い香りだった。

紅茶を置き終わったエリカは、ルナの向かいのソファに座り「さて」と言った。

「これが……ロケット団の目的ですわ」

スッと束ねられた書類の様な物を差し出す。

そこに書いてあったのは、

「『イーブイ改造計画』……!?」
「ええ。ここを見てください」

パラリと数ページ捲ると衝撃的な内容が書かれていた。

「『ポケモン・イーブイは3種類に進化する可能性をもつ珍種である』」
「『仮にイーブイをこの3つの進化形態に自由に変身できるよう改造できるなら、おそらく相当な戦力になることだろう』……」

ルナは自分で読んで身の毛がよだった。

同時に、怒りや憎しみが込み上げてきた。

  憎しみは何も生まんぞ。

分かってます、分かってるんです。そう心の中で叫ぶ。

それでも恨まずにはいられなかった。


  誰の事も恨んじゃ、ダメよ。


ビクン、とルナの体が跳ね上がる。

エリカは不思議そうに目を丸くしている。

しかしルナはそんなエリカに気付かず、脳裏によぎった声に驚いていた。

あれはママ、いやお母さんの声だった。

あの言葉はいつ言われた言葉だったか。覚えがなかった。

それもそうで、両親が殺されたのは五才頃の事だったから。

「………すか」

でもあの言葉には覚えがある気がしてくる。

「……ですか」

そう、確かあの時は庭が花畑みたいで、温かい日差しに包まれていて  

「大丈夫ですか!?」

ハッと我に帰るとエリカが間近でルナを覗き混んでいた。

それにも気付かない位、意識が飛んでいたらしい。

「あ、……ごめん。大丈夫だよ」
「本当ですか? 何か考え事をしていたみたいですけど……」
「本当に大丈夫だよ。それで、そのイーブイをレッド君に探させたの?」

エリカはうなずいた。「ですが」と少し切なげな表情をする。

「もう一匹、いるんです」
「もう、一匹……!?」

耳を疑ってしまう。

静かにうなずくと、エリカは少し目を伏せて話し始める。

「まだ改造されていないイーブイが改造されてしまったイーブイと共に逃げた様なんです」

なるほど、とある考えを胸に秘めながら相槌を打つ。



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