ルナは辺りをキョロキョロと見回す。

それでも赤い彼は見つからない。

きっとその赤い彼はサイクリングロードで自転車に乗っているだろう。

諦めて息を吐きかけると、大きな物音がしてそちらを振り返る。

そこには赤い彼が。意外とあっさり見つかりすぎて口をだらしなく開けてしまう。

しかし、彼は自転車から落ちた様子に気付き、ルナは駆け寄った。

「大丈夫ですか!?」
「ん、ああ……ルナか。なんとか大丈夫だ。いて……、くっそ  。ん?」

いきなりルナが現れても特に驚いた様子も無く、むしろ安心面持ちで安否を答えるがやっぱり痛いようだ。

レッドがふと見た視線の先は、大名行列のように人が並んでいた。

それに対してレッドは感嘆の声を漏らす。

ルナは見覚えがあるな、と既視感を悪い方に感じて身震いのようなものをする。

気が付くと、横にいたレッドはその大名行列の合間にある江戸風の大きな駕籠に突っ込んでいく。

「オ…オイ!! ちょっと! あぶないだろっ!?」
「あ、ちょっと……」

そういうのには近づかない方が良い事を言おうとしたが既に遅かった様で、周りの人達に近づくなと腕を捕まれていた。

「これはエリカお嬢様のカゴだぞ!」
「……………え、今なんて  
「な…! お…お嬢様だか女王様だか知らないけど、あやまれったらあやまれよ!」

男の口から放たれた言葉に反応するも、レッドの怒りで身を乗り出して言った言葉に阻まれてしまった。

すると駕籠が開かれ、ショートカットでカチューシャを着けた和風の駕籠に乗っているわりには洋風のドレスを着た女性が姿を現す。

レッドの後ろで小さく息を溢した音がひっそりとした。

「おあやまりなさい。悪いのはこちらです!」

すると、

「はは       っ!」

と周りの人達は頭を地面すれすれまでに下げる。

レッドとルナだけが依然として立っていた。

「これっ! 頭を下げんか。タマムシシティ名家の一人娘にして、ジムリーダーでもある、エリカ様のお出ましだ!」

男がレッドの頭を押さえつけるが、当たり前と言ったら当たり前だが反応するレッド。

「おケガありませんこと? モンちゃんたらイタズラしちゃって…」
「…そ、そんなことよりジムリーダーって本当!? 本当なら勝負してくれ!!」

そう言って上着を捲り、Tシャツに付いているバッジをエリカに見せる。

エリカがほんの少し眉をひそめる。

「!! 勝負…!」
「ポケモンの勝負さ! このふたつのバッジはニビとハナダのリーダーと勝負して手に入れたんだ。あんたもリーダーなら、バッジをかけた勝負…うけてくれるんだろう?」
「こら…お嬢様に対して失礼な!」
「お嬢様はバカンスからタマムシに戻る途中で、お疲れだ」

興奮した様に早口で敬語を使わずに言うと、周りの人達はレッドに迫っていきもみくちゃにする。

ルナは離れたところで苦笑い。

「わかりました。挑戦、おうけしましょう」
「や…やった!!」

ボロボロになったレッドは嬉しそうにガッツポーズをする。

「ただし…、条件があります。私、実力のない方とは戦いませんの」

そのエリカの言葉に、ルナが眉を寄せる。

「あなたのトレーナーとしての実力を証明するために、こちらの指示するポケモンを捕まえてくることができたなら、勝負してさしあげましょう」
「オウ!! いいぜ。で、そのポケモンって…?」
「イーブイ」


* * *



あの後、レッドは意気揚々とルナを置いてどこかへ駆け出していった。

ルナはそれに少し溜め息を吐きながらも、駕籠へと近付いていく。

「なんだお前は!? これはエリカお嬢様のカゴだぞ!」
「……私は『マサラ』のルナだと言ったら?」

すると男は一瞬で真っ青になり、先程のように素早く頭を下げた。

ルナはそれを横目に、閉じてしまった駕籠の扉に手を掛ける。

しかし力を掛ける間もなく、扉は開いた。

「あら、ルナ」
「エリカ」

いつもほんわかなルナとは思えない真剣な表情でエリカを見つめる。

だが、エリカはなぜルナがここにいるのかも、何を言われるのかもわかっている様で、余裕の笑みだ。

「何の真似? エリカが条件を出すなんて」

キツくエリカを睨むが、まるで表情を変えない。

「そういう気分だったんですわ。いけないんですの?」
「嘘」
「嘘じゃないですわ」
「嘘だよ」

エリカは困った様に笑う。

その様子だと、ルナのこういう態度を見たのは初めてでは無い様だ。

モンジャラはエリカの胸の中にいながら、居づらいようでソワソワしている。

「どうしてそこまで気にするんですの? まさかあの少年に気でもあるのかしら」





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