変な所で貧乏気質がでるが、さすがは金持ちの子。

ちゃんとお決まりの金持ち独特の非常識さがでるらしい。

『お姉ちゃん、コインケースは?』
「こいんけーすぅ?」

ダメだこりゃ。

『スロットをするにはコインが必要で、その入れ物を持って無いといけないんだよ』
「え……、そうなんだ」
『うん……、そうなんだよ』

ルナは今、なぜこの世界の通信機器はテレビ電話なのかと思った。

思いっきり可愛い妹の呆れ顔がモニターに映ってるんですけど。

『あぁ、それとコインはカウンターで交換してもらえるから』
「そ、そっか! ありがとう……」

姉は物凄く恥ずかしそうに目を泳がせていた。

そんな姉も凄く可愛いな、なんて微笑ましく思ったり。

シスコンの極みか。

『ところでなんでスロットのルールなんて  
「じ、じゃ、ありがとうね! バイバイ!」

ブチッ!


* * *



一方的に切られてしまった。

もう少し話していたかったのだが。

「……ほんと、嘘吐くのヘタだなぁ」

そう含み笑いで事務椅子の背中にもたれかかる。

「ねぇ、『あなた』もそう思うでしょ?」

『その子』はニコニコと笑い、体を縦に揺らした。


* * *



やばいやばい、と額に出てきた脂汗をぐいと拭う。

それにしても。

コインケースなんてどこにあるんだ。

買える、のだろうか?

とりあえずゲームセンターに戻って受付の人に聞くと、

「申し訳ございません。只今切らしていて……」

と言われた。

しかしあった事にはあったらしい。

「すみませんがどなたかに譲り受けて頂くしか  
「そうですか……」

ルナがしょんぼりと肩を落として小動物の様に小さくなっていると、後ろから声がかかる。

「キミ、なんか困ってるの?」

意外にもダンディな煙草をくわえている男性だった。

「はい、そんなんです」と遠慮がちに言うと、彼はニヤリと笑った。

肉食系の顔だった。

「コインケース、あげようか?」
「え、本当ですか!?」
「ああ、勿論だ」

男がそう言うと、他の客も我も我もとルナにコインを分け与えようと身を乗り出した。

ルナはいつのまにやら大勢の男達に囲まれていた。

逆ハーレムの完成だった。

「すみません。ご厚意に甘えさせて頂きます」

そう眩しい満面の笑みで言うと、男達は嬉しそうに頭を掻いた。

「あ、ついでと言ってはなんですが、スロットの動かし方とか詳しいルールも教えて頂けないですか」
「ああ、構わない」

男の煙草の臭いを嗅ぎながら、ルナは煙草の臭いも悪くないと感じていた。

お父さんの様で、懐かしい雰囲気を感じていたのかもしれない。


* * *



三日後。

レッド、グリーン、ルナのポケモンが入れ替わってから三日という月日が流れていた。

レッドはポケモン達と仲良くなるのに奮闘し、グリーンはポケモン達を鍛えていた。

そんな中、ルナはずっとゲームセンターに入り浸っていた。

なにしろルナにはスロットや賭け事は向いていないらしいのだ。

もし良いところまでいってもどんでん返しの大暴落なんて事も。

そんなわけで、グリーンの様にあっという間に9999枚とは程遠かった。

それでも、周りの人達の厚意でコインを貯めていったり。

なんやかんやで9999枚貯まり、ポリゴンと交換してもらったのだった。

まだルナの家にいなく、両親の為にも入れたかったのだ。

『やっぱりそんな事だろうと思った』

さらりと言われルナは脱力した。

『だってお姉ちゃん誤魔化すの下手だもの』
「そうかなあ?」
『そうだよ』
「じゃあ、とにかくそっちにポリゴン送ったからね。体には気をつけて。風邪引かないでね。ポケモン達のご飯絶やさないでね。だからといってリナのご飯も栄養バランスが偏らない様に食べてね。あ、それから  
『わかったわかった!!』

弾丸の様に話され、リナはとうとうルナの言葉を遮った。

これはまだ良い方だ。

いつしかは、区切らずに一文で長々と、そして淡々と早口で話された事があった。

そういう時は大体、リナの身を案じての事だった。

全く、過保護なんだから。

「ごめんごめん。じゃあ気をつけてね」
『うん、またね』

ルナがポケモンセンターを出たときには日が沈み、夜になっていた。



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