「お金よ、オ・カ・ネ」

語尾にハートを付けて笑う。

ルナが聞いていなくて、本当に良かった一言だった。

ええ〜っ! お、お金〜!?」
「あなた…、現在確認されているポケモンが何種類だか知ってる?」

ルナはスコープを外すと、ブルーの見よう見まねだが弄り始めた。

自然と二人の会話が耳に入ってきた。

「う…、そんなの知ってらーい! 150種類!! これが現在確認されている…」
ブブー!!

ブルーは手でバッテンを作りながら力強く言う。

ルナも指摘ながらスコープを装着し直す。

「実質は151匹なんです、実は」
「そうなの! いい? 150種のどれとも違う幻の151番目のポケモン、それがミュウなの。世界中のブリーダーが手に入れたがっているわ」

思わず笑いが込み上げてくる。

「うまく捕まえれば、きっと高く売れるわ。うぷくくくく」
「まったく。あきれるよ! やつらは最凶のバイオ兵器を作ろうとしてるってのに、キミはペット用に売ろうだなんて。なぁ、ルナ!」
「ブルーさん、いま少し見えました!!」
「貸して!」

レッドはルナに同意を求めるも、全く聞いていなかった様だった。

ブルーもまた然り。

「オイ、聞いてんの…」
『しっ、静かにして(ください)!』

二人同時に諭され、少し悲しくなったレッドだった。

気が付くと、三人の周りを囲む様な風が起きていた。

「な…なんだ!? この…風…」
「これ…風じゃない。サイコキネシス≠ノよる空気の乱れよ」
「という事は……」

ルナの言葉を遮る様にブルーが指差し、大声をあげた。

「! あそこ!!」
『ミュウ!!』

そこにはメタモンが変身したミュウとは段違いの神々しさを纏ったミュウが翔んでいた。

ルナはミュウを見て、ポツリとその伝説ポケモンの名を呼んだ。

それは色んな感情が入った声だった。

反して改めてじっくり見る本物のミュウにただただポカンとするしかないレッドだった。

「こ、こいつが本物のミュウ…」
「なに、ボーッとしてるの! はやく捕まえなきゃ! 貴女も!」
「え……、あ、はい……」
「よし!」

ブルーはカメールを、レッドはフシギソウを、ルナはロコンを出した。

ミュウを見ると、すごい速さで空中を翔んでいた。

 はやい!」

素早いミュウに、レッドが頭を悩ませる。

「…スピードのはやいやつを捕まえるなら、オレのフッシーのツルがもってこいだ! だけど…、位置がわからねえ!」
「わかったわ! カメちゃん、ハイドロポンプ≠諱I ほら、貴女も!」
「う……、ロコ、火炎放射!!」

レッドの援護に、地面からカメールはハイドロポンプ≠、ロコンは火炎放射≠吹き出させる。

最も、ルナは嫌々だが。

「これで軌道がわかるはずよ」
「よしきた! うおおりゃああ!つるのムチ=[っ!!」

勢い良くツルがミュウへと飛んでいき、そして正確にミュウを捕まえる。

「やった! ゲット!!」

だが喜ぶのも束の間、突然後ろから気配がした。

三人はそれに気付き、間一髪で後ろから飛んできた岩の衝突を逃れた。

「わあ!」「きゃあ!」「きゃ!」

上を向くと、崖の上にロケット団が大勢整列していた。

ロケット団のポケモンらしいルージュラの人形をした手にはメタモンが。

どうやらブルーの企みがバレたらしい。

「あっちゃあ! バ…バレた!」

メタモンがびたという音を立てて地に落ちた。

「やれ! ルージュラ、サイケこうせん  !!」

ルージュラの念力波に、ミュウが苦しそうにもがく。

その際に、フシギソウのツルがきしんだ。

「やーん、ミュ…ミュウが逃げちゃう」

ここまで来ても、ミュウを諦める気は無いらしい。

「くそ! ここは…オレがくいとめる! キミはミュウを! ルナと一緒に! もって逃げろ!」
「え…?」
「レッド君!?」

レッドがブルーとルナを護る様に両手を広げて相手に立ち塞がる。

ルナにはレッドの背中がたくましく感じた。

「やつらに…やつらにミュウを渡しちまったら…」

その時、ルージュラから冷たい冷気が飛んできてレッドは苦しそうな声を短く出す。

「ミュウを渡しちまったら、恐ろしい怪物の材料にされちまう! はやく!」

ブルーに渡してもお金になってしまう運命だった。

しかし、今はそうも言っていられないか……。

「う、うんっ!!」

しかし  

「させるか! ルージュラ!サイコウェ〜〜ブ!!
「わあああ!」
「きゃあああ!」
「いやあああ!」

これはポケモンはもちろん、人間であるトレーナーにも効果は大だった。

思わず耳を塞いでしまう。

例えるなら、黒板に爪で引っ掻いたのを鋭くした感じか。

身の毛もよだつ、とはこの事だった。

とうとう攻撃の威力でか、フシギソウのツルは切れてしまった。

『ああっ!』
「ミュウ!」

ミュウはツルが巻き付いていて自由がきかなく、ただ抗う事も出来ず飛んでいく。

ロケット団はガッツポーズをする。

「勝った!! これでミュウツーが完成し…、何者をも消滅させられる力が我らの手に入るっ!! ウハハハハ!!」

ルージュラはミュウへと手を伸ばす。

ルナは絶望に顔を歪ませる。

「くっ、間に合ってくれニョロ!」

レッドは苦しそうにしながらも、ボールを天へと投げた。

ニョロボンはそのまままっすぐ飛んでいき、なんとかルージュラの元へ届き、その手のひらに拳をぶつけた。

  凍ってしまったが。

「ああ…!」

凍ったニョロボンは今度はそのまままっすぐ地へと落下していった。

ミュウに巻き付いていたツルはほどけた。

「ミュウ    !!」

ピクリ。

ミュウは一瞬、ルナを見る。

すると、ルージュラの方を睨み付けると、その身を輝かせた。

「いかん! ルージュラ、はやく捕…」

指示するも、時既に遅し。

ミュウはロケット団とルージュラに光を浴びせていた。

だが、それも一瞬の出来事だ。

レッドとブルーは何が起きたのかわからず、目を見張る。

ロケット団とルージュラは氷の様に固まって動かなくなり、しばらくすると倒れてしまった。

ミュウは三人をじっと見つめていた。

しかし、踵を返して、またサイコキネシス≠ノよる空気の乱れを起こして去っていってしまった。

三人はその様子を呆然と見送るしか無かった。

「ミュウ…」

ブルーは「ああ…、行っちゃった」と腰を下ろしてしまった。

「オ、オイ元気だせよ。しょうがなかったろ。ロケット団にとられなかっただけマシだろ!?」
「そ、そうですよ。またの機会があります!」

二人してブルーを慰める。

すると突然ブルーが震え始める。

「うう…ウププププ」
『?』

いきなりブルーがこちらを振り替える。満面の笑みで

撮影大成功!『タマムシの上空に幻のポケモンあらわる!!』高く売れるわよ、コレ」
『あ゙  っ! い…いつの間に!?』

同時にブルーが持っているカメラを指差す。

もうここまで来ると、ブルーのちゃっかりさは天性のモノなんじゃないかと思ってくる。

「オイコラ! オレが戦ってる間にどーゆーこと…」
「さあ、買い手さがしに行かなくっちゃ」

ブルーは既にプリンに乗って飛んでいってしまった。

レッドの怒りは頂点に達した。

「くそーっ、勝手にしろやい!」

ルナはもう笑うしか無いという様に小さく声をあげて笑っていた。

ここまで人間を引っ掻き回せるなんてある意味凄い能力だと思った。

決して誇れる能力でも無いが。

レッドはルナに「行くぞ!」と言ってポケットに手を突っ込むと何かに気付いた様に声を出す。

「ん?」
「どうしたんですか?」
「……」

レッドがポケットから出したのは、ブルーのお礼の手紙とレッドが盗まれたはずのジムバッジだった。

それを見たレッドは眉を下げながらも、少し笑って空を漂っているブルーを見上げた。

「ブルーか…」
「惚れたんですか?」
「バッ、違うよっ!」
「じゃあ、なんなんですか?」

いきなりブルーの名前を呟くレッドを疑問に思ったらしい。

だがレッドは顔を真っ赤にして全否定した。

ルナは半信半疑だった。なんて鈍感な少女なんだろうか。

「そういえば……」

レッドはさっきのルナを思い出し、聞こうかと思ったが止まった。

なんとなく聞いてはいけない気がしたのだ。

「なんですか?」
「なんでもない! 行こうぜ!」
「変なレッド君ですね」

そう思いながらも、笑顔で手を差し出され、手を差し出し返して手を握るルナ。

  まぁ、いいや。いつか聞けるだろう。

二人は同じようにそう思っていた。


女は男より強し?
(ルナがミュウに指示した様に見えた)

20121028

[ back ]
×