別に男尊女卑じゃない。

単に、無性に心配になるのだ。彼女の事が。

彼女が傷付いたり、悲しそうにしたりしていると嫌なのだ。

それでも、彼女が望む事は叶えてやりたい。

「………………わかった」

こうして、ルナもロケット団の格好をしてアジトに乗り込もうとなったのであった。


* * *



「A班は、東16ポイントを! B班は西21ポイントを捜査! C班は、地下で情報分析だ!」

レッドとルナはC班だった。

一番偉いらしい男がポスターの後ろに隠れていたボタンを押す。

すると、音をたてて階段が現れる。

中からは大きな音が聞こえてくる。

薄暗い地下を下りると、鎖に繋がれた物体が目立つ所に大きな硝子の様な物に入れられていた。

ルナはそれを見て口を押さえて目を見張る。

レッドもそれを見て驚きを隠せなかった。

側にいた研究員の話が聞こえてきた。

その話のどこかのワンフレーズの所でルナの息を飲む音が聞こえたが、あんな物を見た後であまり気分が優れなかったのでそれどころじゃなかった。

「やはり、わずかなサンプルからの遺伝子組みかえでは完全体にするのは無理があるかと…」
「要は、基盤となるミュウそのものを再度捕獲できればよいのだろう?」
「ええ…ですがそれは不可能…」
「そのためにあの少女を追っているのだ!!」

机を思い切り叩く音がし、ルナがハッとした様に顔をあげる。

「あいつに奪われたディスクを取り戻す以外、ミュウを捕獲する手だてはない!!」

ディスクまで盗んでいたのか、と少し呆れてしまうルナ。

そんなルナに耳打ちをするレッド。

(ロケット団がブルーを追っているのは…そのためか! でも、あいつらの言ってるミュウ≠チてなんのことだ? ルナは知ってるか?)

ルナを見ると、なぜか俯いていた。

(……ルナ?)
(あ、えっと……知らない、です)

ルナの様子が明らかに変で、大丈夫かと聞こうとするがブザーの様なものが響く。

『総員、東16ポイントに集合!! 例の少女が見つかった!!』
「ルナ、行くぞ!」

いまだに俯いているルナの背中の肩を引っ張る。

だが、微動だにしない。

「おい、ルナ?」
「あんなものの為に、  ママとパパは」
「え……?」

ルナは首を振り、レッドを引っ張って走っていた。

その背中は悲しみに溢れていた。

話す必要は無い、そう確かに言ったが、自分には話す価値が無いのだろうか。

いつかは自分の口で話してもらいたいと思ったレッドだった。


* * *



ここは第16ポイント。

そこでは大勢の黒づくめの男達が円を作っていた。

その中央には茶色の長髪、ブルーがカメールと共にいた。

これだけ大勢に囲まれているのにも関わらず、ブルーは余裕綽々だった。何か策でもあるのだろうか。

「あーら、こんなか弱い女の子1人に、ずいぶん大ゲサなことね、ロケット団のみなさん」

丁度、C班のレッドとルナ達が到着した所だった。

(いた! あ…あいつだ!)
(ブルーさんで間違い無いみたいですね)

レッドとルナがひそひそと話していると、周りのロケット団達はゴツイポケモンを出し始めた。

「それはダメよ! だってミュウちゃんは……、あたしが捕まえるんだもーん」

指でディスクを弾くと、カメールが口にくわえた。

それにはここにいるブルー以外の人間が驚く。

(あっ!)(あ……)
「な…なんてことを!」

スカーフの偉いらしい男が焦った様に顔を歪ませる。

「あんまり強力な攻撃だと、ディスクが壊れちゃうかもね」

「それでもいいならかかってらっしゃいな」とスカーフの男を挑発する。

ブルーの挑発に乗ったスカーフの男はカイリキーとサワムラーをカメールに向かって放つ。

「うぬう! と、とにかくディスクを傷つけぬよう戦うんだ!!」

それを見たレッドが危ないと焦るが、ブルーの目論見通りカイリキー達の攻撃は空回りする。

むしろ、互いに攻撃し合ってダメージを受けてしまった。

「フフッ! ディスクを気にして、本気を出せないのかしら。悪いわあ」

全く悪びれた様子も無く言った。

「でも、トレーナーバッジを2つも持ってるあたしに挑戦しようなんて、ちょっと身の程知らずってこともあるわね」

チラと髪を耳の後ろに流して見えたバッジにルナがあ、と声をあげる。

横を見てみると案の定、レッドは怒っていた。




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