―タマムシシティゲームコーナー―

ゲームコーナーと言っても、今は客が一人も居なく、全く騒がしくなく、コインとコインが触れ合う音も無かった。

ただ、ここには黒ずくめの男達しかいなかった。

「まだ見つからないのか?」
「ハ…ハイ! しらみつぶしにさがしているのですが…」
「言いわけは無用! 一刻も早く見つけ出すのだ! この娘を!!」

この中で一番偉いらしい男がブルーの大きな写真を力いっぱいに叩く。

それを無言で見ている、小柄な二人

そう。ロケット団の格好をしたレッドとルナだった。

レッドはまだしも、ロケット団に敵意があるルナがこんな事をしたかは、今日の早朝にさかのぼる。


* * *



レッドは朝早くに起き、昨日あれだけ探った草むらを引っ掻き回していた。

「…ない! やっぱり落としたなんてことはない!」
「昨日リンゴを探した時に、ありませんでしたもんね」
「…ってことは、あのブルーって子が持っていったな」

ルナは特にブルーと話したわけでは無いので、しっかりしてそうな印象のブルーがそんな事をするとは思えなかった。

そんな事をルナが思っている間に、レッドが怒った様な悔しそうな様な声を出す。

「くっそお! オレのトレーナーバッジを! あいつ、絶対許さねえ!!」

どうしてトレーナーバッジを盗むのか、その意味が分からなかった。

「そうだ!! ルナは、トレーナーバッジあるか!?」
「え!?」

慌てて髪を縛っていた真っ白なリボンを見る。

きちんと付いていた。

ルナは安堵の溜め息を吐く。

なぜリボンにバッジを付けているかというと、バッジを付けたリボンで髪を縛ると、そのバッジの『重み』が感じられんだとか。

レッドは以前にその話を聞いた事がある為、なんら不思議そうにせずに自分も安堵の溜め息を吐いた。

「良かった。……昨日の今日だ。まだそんなに遠くには行ってないはず…」

「ルナ、地図貸してくれ」と言われ、昨日の買い物で買っておいた地図を渡す。

「よぉし!」

その時、二人の視界に黒いものが入る。

「あっ!!」
「……!」

胸にRの文字。間違いない。ロケット団だ。

レッドは木の陰に隠れてロケット団に近付く。

ルナもレッドの背中に隠れて、ロケット団の様子を眺める。

レッドはルナの様子が変化してしまわない様に注意しながら、小声で話しかける。

(あいつらは…ロケット団だ)
(ええ、間違いないでしょうね)

ロケット団の話が聞こえてくる。

「ブルーとかいったな、あの小娘」
「ああ、逃げ足が速くてすぐ見失っちまう。まったく…」

どうやら、自分達と同じようにブルー関係の様だ。

(…なんでだ? やつらもブルーをさがしている!?)
(ロケット団もトレーナーバッジを盗られた、とか……じゃなさそうですね)
(よーし、こうなったら……)

レッドが何を企んでいるのか想像出来、黙ってレッドに着いていく。

だが、突然こちらを振り向き首を横に振る。

来てはダメという事だろうか。

そう考えている内に、レッドの背中はどんどん遠ざかっていった。

自分は見ている事しか出来ないのだろうか……。


ロケット団はレッドにまんまと茂みに呼ばれ、気絶させられた。

「ロケット団のアジトに忍びこんで、ブルーの手がかりを見つけてやるぜ」

レッドが男の服を着るために、手をかけた時、ふいに後ろに影が出来た。

不思議に思い、ゆっくりと後ろを振り向いた。

  っ!」

さっき別れたはずのロケット団の片割れだった。

油断した! そう思い、目を閉じた。

……だがいつまでたっても何も起こらない。

おそるおそる目を開けると、片割れの男は崩れ落ちた。

そして、その後ろにはルナが大きくて太い木の棒を両手で持っている姿が見えた。

「ルナ!?」

来るな、と合図をしたはずなのに。

「守られているだけなんて嫌です」
「でも、オレがトレーナーバッジをなくしたんだし……」
「貴方は、いつだって自分の関係無い事も突っ込んでいきます」

マサキのトラブル、ポケモンタワーのトラブル、そしてルナのトラブル。

「貴方は、いつだって私を助けてくれます」

そして、温かな手で自分を撫でて安心させてくれた。


手を引っ張ってくれた。


「私だって貴方を助けたいです!!」

その今にも張り裂けそうな顔にレッドの心がチクリと痛む。

しかし、自分は男でルナは女の子なのだ。



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