ルナ達が走っている間、レッドは少女を穴から引っ張り出して草むらに横たわらせていた。

「まあ、そのうち目覚めるだろ」

お金返してもらわなくっちゃ、とレッドは少女に近付いて少女の首についている財布を取った。

「へえーっ。この子、ブルーっていうのか」
「きゃー!! レッド君が女の子の寝込みを襲っている!?」
「違っ! ルナ、誤解を招く様な事を大声で言うなよ!」

かくかくしかじかでルナに今までに起こった事を説明する。

するとルナは「ああ、なるほど」と言ってうなずく。

「でもそれはレッド君も悪いと思いますけど」
「な、何で!?」
「アイテムに6000円も使う人が悪いです! 私は負けてもらっているのに! 待ってると言ったのに待って無いですし! 女の子にデレデレしてますし!」

そうルナが怒って言うとレッドは言葉に詰まった様に顔を背けた。

「そ、そうそう、せっかく倒したんだ。こいつのデータもとらないとな」

誤魔化す様にわざとらしく声を大きくして言う。

図鑑の画面には『ゼニガメは成長すると耳が生え、かメールへと進化する』と表示された。

「!! ゼ…ゼニガメの進化形…? ま…さかね」

オーキド博士の言葉が脳裏に浮かぶも、考えない事にした。

「もう悪いことすんなよ」
「ちょ、ちょっとレッド君!」

ルナは逃げるように歩いて行くレッドを追いかける。

後ろで不敵な笑みを浮かべているブルーには気付かずに。

しばらく歩いた後、ルナは大切な事に気付いた。

「リンゴが無い……」
「リンゴ!?」
「ポケモン達のご飯と私達のおやつです」

そう言うと、ポケモン達、特にロコンが衝撃的な表情になる。

レッドは「ああ、それが負けてもらったってやつか」と手を叩いた。

「じゃあルナはリンゴを失くしたからお相子って事で!!」
「……だいたいレッド君を追いかけてこうなったんですよ?」

ニッコリと笑っている彼女の後ろには禍々しいオーラが出ていた。

イマハムカッタラ、コロサレル。

レッドの顔には汗がだらだらと流れていた。

「しょうがない。一緒に探すか」
「しょうがない……?」
「一緒ニ探サセテ頂キマス」

とりあえず、高速スピンで投げ出された草むらを探してみる。

無かった。

近くに川があるから心配になるが、そんなわけないと自分に言い聞かせ、首を振る。

後は最初の場所か  

そう思って行った時には辺りは橙の夕焼けに染まっていた。

よーく、辺りを見回すが大きい紙袋に入っていたのだ。パッと見で、無いなら、無いのだろう。

それを認めざるを得なくて、ルナは悲しそうにしょぼんとしていた。

そんなルナの肩を誰かが叩く。

誰か、なんてもうわかりきっているが、返事もせずに目だけを向けた。

その目の前には赤。朱。緋。紅。

「り、リンゴ!?」
「あ、一応言っておくけど買ったわけじゃないからな?」
「どこで……」

そう蚊の鳴くような声で聞くと、レッドが指を指す。

その指の先では先程自分に可愛いと言って負けてくれたおじさんだった。

「あの人が預かっててくれてたんだよ」
「そう、ですか……」
「ほらよ」
「ありがとう、ございます……」

それと、

「フッシーの進化、おめでとうございます……」
「気付いてたのか!?」
「そりゃあ! ……と、と言うか実はそれに拗ねてたんです」

今頃になって恥ずかしくなってきたのか、赤くなった顔をリンゴの荷物で隠す。

丁度、夕焼けに染まっていたので、レッドは気付いていなかった。

レッドは不思議そうに眉をひそめる。

「どういう事?」
「だって、今まで仲良くしてたフッシーの進化が見られないなんて残念じゃないですか……」
「あ、そうか……。フッシーは研究所にいたんだったな」
「はい……」
「そっか……、気付かなくてゴメンな」

レッドがルナの頭をポンポンと撫でる。

最近、よくレッドに撫でられているルナ。

不思議とレッドに撫でられると落ち着く事に気が付く。

「い、いえ! 私こそくだらない事で拗ねてすみませんでした。今度はフシギソウが進化した時は垣間見たいですね」
「ああ、絶対見せるよ! 約束!」
「? 何ですか、その小指は?」

「何って指切りだよ!」とさも当然の様に言うレッド。

「ゆーびきーりげんまんうーそついたらはりせんぼんのーます、っと」

なんだか子供  今も十分子供だが  みたいだな、と笑ってしまう。

レッドは訝しげな顔をしたが、何も言わなかった。文句の一つでも言うと思ったが。

「じゃ、ホテルを予約してからご飯にするか!」
「はい!」

ポケモン達も元気に返事をした。


* * *



あ〜〜!

ルナが優雅なティータイムをしている時、隣の部屋から大きな声が耳をつんざく。

思わずストレートティーをこぼしかけた。

慌てて隣の部屋へ行く。

まさかとは思うが、ロケット団や悪い奴に襲われてるかもしれない。

「どうしたんです………か?」

バタンと乱暴に扉を開くと、上半身裸で黒いシャツと上着をバタバタと振っていた。

落ち着こう、自分。

なぜにこの少年は上半身を裸にしているのだ。

「な、何かお探しですか……? リンゴなら見つかりましたよ?」
「違うんだ! 無いんだよ!!」
「何が、ですか?」
「トレーナーバッジが!」
「……………え」


ふてくされ少女の憂鬱
(拗ねるなんて可愛くないなぁ、私)


20121018


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