「予想外の早さでロケット団と関わっちまったな……」

黒をまとった少年が、風を体全身に感じながら呟く。

傍らのピカチュウがそれに答える様にうなずいた気さえする。

そして少年は大きなウインディに飛び乗り、その手にある赤い石を強く握り締める。

「早くこれを……!」

その声は、風の音で消え去ってしまった。


* * *



「チュカ、ロコ! そこだよ!」

ただいま、タマムシシティ近く。

そこではルナがレッドに特訓してもらっていた。

ルナがシオンタウンを出る際に、もっとレッドの様に強くなりたいと言ったのだ。

「どうでした?」
「うん、良くなってる!」
「本当ですか!?」

ばんざーい、とポケモンと一緒に素直に喜ぶルナ。

そんなルナを見つめるレッド。

考え事をしている様な顔だった。

不思議になって、ルナがレッドの顔を覗き込む。

「どうしたんですか?」
「ん? いや、オレもニックネームを付けようかなと思ってさ」
「ニックネーム、ですか」
「うん。いつまでもフシギダネじゃよそよそしいな」

そう真っ赤な顔で恥ずかしそうに言う。

「今日からフッシー≠セ!!」
「フッシー! 良い名前ですね!」

その時、レッドの服の裾を引っ張る手が二つ。

ピカチュウとニョロボンだ。

「何だよ、お前たちも欲しいのか? んー、じゃあ」

ドキドキしている二匹を見ているとルナまでドキドキしてしまう。

「ピカ≠ニニョロ≠セ!」

三匹は嬉しそうに駆け回る。

レッドもそんな三匹を見ていると嬉しそうのか笑顔で三匹を見つめている。

「やっぱりニックネームの方が『仲間』って感じだよなー」
「フッシー達も嬉しそうです」
「お前のポケモンのニックネームはどういう感じで付けたんだ?」
「あ、チュカもロコも家のポケモンなので、私は付けてないんです」

「家のポケモン……?」とレッドが聞いた瞬間、しまったと思った。

急いで言い訳を考える。

自分が金持ちの家な事を悟られない様な言い訳……。

「あのっ、私、小さな頃は体が弱かったので自分では捕まえられなかったんです」

あながち嘘じゃあ無い。よし。

「そうなのか」
「そうなんです! だから捕獲はものすごく苦手で……」

どうやれば捕まえられるのか全く分からないのだ。

捕まえようとした時はあるが、全敗だった。勝ち負けではないが。

「じゃあ捕まえ方を教えてやろうか?」
「ホントですか!? お願いします!」
「まぁ、教えられるほど特別上手いってわけじゃないけどな」

ルナが凄く嬉しそうに飛び付くので、レッドは照れくさそうに頬を掻いた。

じゃあ、そうだな、と言って辺りをキョロキョロする。

その時、グットタイミングでサンドが草むらから出てきた。

「よし、ピカ!」
「え!? 地面タイプに電気は効かないんじゃ……」
「良いんだよ、捕まえるんだから」
「あ、そっか……」

改めてサンドの方に向き直る。

「ピカ、電気ショック=I」

攻撃自体は効いていなくても、反動は伝わるのか、サンドは辛そうに目をつぶる。

そして、危険を感じたのか身体を丸くする。

レッドはそれを待ってたのか、舌をチロリと出す。

「ルナ、今だ!!」
「は、はい!」

ルナは自分なりに力いっぱいサンドに投げる。

するとサンドはボールに入り、しばらくカタカタと動く。

ルナは手に汗握る位、緊張して堪らなかった。

さっきから心音が頭に響いて喧しかった。

そして、全く動かなくなった。

「え、あ、え……?」
「良かったな! 捕まえられたぞ!」

そう言ってルナの頭をわしゃわしゃ撫でた。

しばらく放心状態の後、

「やったあ………!」

初めての捕獲に嬉しそうに、サンドの入ったボールを抱き締めた。


愛称と初捕獲
(貴方も今日から私の『仲間』!)


20121018


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