どのくらい上っただろうか。 体力の無いルナにはキツかった。 運動神経はまぁまぁなんだが、体が丈夫で無い為、体力は必然的に無いに等しいのだ。 中でも階段の上った下りが体力を奪われてしまう。これは鬼だ。 それにしても、窓の様な形に穴が開いてるのに薄暗いだなんて。 こんな薄暗い階段なんて登っていると階段の怪談を思い出してしまう。 ……これはダジャレだ。 「オーイ、ちょっとまってくれよー」 「待って下さい〜」 グリーンは流石イケメン属性。涼しい顔をしている。 しかし、レッドとルナはもう疲れきっていた。 「ついてこいなんていってないぜ」 「か〜〜っ、かわいくねえ奴!」 か〜〜っ、って親父か。 「こっち二人は、1R戦ったあとなんだぜ!」 「え、私はあんまり……」 「しかもお前のために!」 「礼はさっき言った」 「うるさい」と軽く一喝する。 「くっそう…。いったい何階建てなんだよ、この塔はぁ!!」 「長いですよね……」 フジ老人宅で見た時、確かに高くそびえていたが。 その時、レッドが下を見て不思議そうな声を出す。 「何だ、これ?」 どろどろとした液体の様なものだった。 刹那 「うわあああ!!」「ひゃあああ!!」 そしてそれが襲いかかってきた。 ふわり、浮いた感覚がしたと思った時、ルナはさっきまで見上げていたものが、今見下ろしている。 レッドとグリーンがリザードによって抱えられているのだ。 レッドは気付かずにいて良かったが、ルナはグリーンに抱えられた。 まぁ、レッドが気づいてグリーンに文句を言っても、そこしか場所が無かったんだと言われて終わりだろうが。 上手く避けたが、レッドの服は溶けてしまっていた。 「わああ!!」 「毒ポケモンのようかいえき≠セ。ボーッとしてるとヨーグルトになっちまうぞ!」 ………。 「……グリーンさん、今のは笑う所でした?」 「う、うるさい!」 その時、怪しげな笑い声が響き渡る。 「出てこい!」 そうグリーンが声を荒らげて言うと、忍者の様な格好をした黒ずくめの男が音も無く現れる。 ルナは見知らぬ顔に首をかしげる。が、レッドは知ってるのか驚きの声をあげる。 「あ…! おまえはオツキミ山の…!」 「小僧、あの時はよくもジャマをしてくれたな」 黒ずくめの男もレッドを知ってるのか、順応した態度を取る。 「オレの名はロケット団三幹部のひとり…、忍のキョウ!」 「ロケット団三幹部…?」 「……」 レッドは不思議そうな声を出す。 ルナはただただキョウを見つめていた。 「我らの前線基地としてこの塔を利用してやる計画が、どうしてこうジャマばかり入るかねぇ」 「前線基地だって!?」 前線基地の意味知ってるんですか、なんて無自覚な売り言葉も言わずに、浮遊しているキョウを見つめるルナ。 「なにせ、この町の奴らは悪いことがおきても全て幽霊のせいと考えてくれるからな。都合がいいんだよ」 「で、貴方は誰ですって?」 いきなりルナが言葉を発した。 突然の事で、グリーンの攻撃を促す手が引っ込んでしまった。 レッドとグリーンは、またいつもの天然なのかと思い、頭を悩ませた。 「だからオレはロケット団三幹部のキョウだと言ってるだろう」 「へえ。……………そうですか」 『!』 ルナの顔が突如、キツイものへと変貌した。 レッドは勿論、グリーンまでもが初めて見たその顔に驚きを隠せなかった。 ブラウンの瞳が暗闇によってなのか、赤黒く見える。 レッドがルナの変化に彼女の名前を呼ぶが、グリーンがレッドの肩を掴みルナの近くに行かせない。 「グリーン!?」 「……止めとけ。あれは、あのルナはお前の知ってるルナじゃない」 「どういう」 「おじいちゃんが言ってたのはこういう事か……」 「鬼……!」 ルナは仁王立ちで、キョウを見据えていた。 何者も寄せ付けない、そんな雰囲気が今の彼女にはあった。 「貴方達は……いや、お前達は何人殺してきた」 「……さぁな。邪魔な奴は始末してきたからな」 「…………っ!!」 その時、ルナの口から顎にかけて血が伝う。 どうやら唇を思い切り噛んだらしい。 突然誰かがルナを後ろに引き寄せる。 「いけっ、リザード!!」 リザードの口から強力な炎が吐き出される。 だがキョウは現れた時の様に消えてしまった。 「立体映像!?」 それと同時に、キョウの声が聞こえアーボックが凄い迫力で近付いてきた。 そして、口から先程レッドの服を溶かした液体が吐き出される。 という事は先程の液体はこのアーボックによってのものか。 その液体は壁を難なく溶かした。 レッドがそれを見て恐怖した時、グリーンとルナは下の階段へと駆け出していた。 「どこ行く気だよ、グリーン! ルナまで!!」 「死にたくなけりゃだまってついてこい!」 グリーンとルナを先頭に、苦労して上った階段を全速力で駆け下って行く。 今のルナは、さっきまでの体力の無さは無くなっていた。 レッドはそんなルナを気にしながら階段を下る。 あれよあれよと言う間に階段はどんどん形を失っていった。 「上の階がくずれてくるぞ! 下へ下がってどーすんだっ!?」 レッドがそう聞くが、返事は返って来ない。 「(奴は別の場所にいてポケモンを動かしてる)」 『(それなら…)』 グリーンとルナが同じ思考になった時、アーボックが液体を出すのを止めて自らの尾で攻撃してくる。 「チッ、リフレクター=I」 「ロコ、神秘の守り=I」 グリーンはリザードの炎でバリアをはり、ルナはもしもの為にレッドとロコンを光の中に包んだ。 アーボックはバリアにぶつかり、その身を反らせた。 ←|→ [ back ] ×
|