グリーンの笑顔を思い出した時は、怖くとも何とかなると錯覚したが、それは錯覚に過ぎなかった。 タワーのドアを見た瞬間、その錯覚はどこかに飛んでいってしまった。 ドアを開けた時に「ギギギ」なんて音がする建物なんてアウトだ。余裕でアウトだ。お化け屋敷に決まってる。 そんな恐怖しているルナとは裏腹に、レッドはルナが押し付けている胸に少しほくほくしていた。 10代でこの大きさとはチートか、と思う位に実っている胸だった。 さすがにメロンとまではいかないが、だいたいイヨカン位か。 そんな感じでレッドは恐怖で震え上がる事は無かった。 が ヒヤリとしたものが首筋に感じた瞬間にレッドの顔は赤から青に変わっていた。 「うわああああ」 レッドがしがみついていたルナを振り払って尻餅をつく。 レッドが自分のいた所を見ると、天井が雨漏りしている事に気がついた。 「なんだ、雨もりか。お…おどかしやがって…」 そう、顔をひきつらせて言うレッドをルナが穴が開くほど見ていた。 「な、何だよ……」 「ふふ、レッド君も怖いものがあるんだなぁ、と思って」 「こ、怖くねーよ!」 「照れなくても良いんですよ!」 「いや照れてないから」 気付くとルナに突っ込んでしまっているな、と思う。 別に人にツッコミをする性分でも無いのに。 まさかこの少女相手だとどんな人でもツッコミになってしまうのだろうか。なんて恐ろしい子。 「くそ、それにしても広いな。一体どこまでつづいて…」 そうレッドが言った時、暗い空間に白い霧がかかる。 「あれ?」 「う…、なんだ? このキリ…」 「こんな所で霧なんて……」 不自然だし、怖さが増大する。 その時、先の方に何か見えてくる。 「ん? あれ? ポケモン!?」 「コダックですね。……でも、なんか、様子が」 「ありゃ!? こっちにも」 次々とヤドンやベロリンガやモンジャラといったポケモンがいつのまにか出てくる。 そしてその一匹のコダックが滑るようにレッド達に近付く。 そして、 『うぎゃあああ!!』 完全に骨の、ガイコツコダックの姿で口を開けられる。 ショッキングすぎる。 「で、でででで出た 「ユユユ…ユーレイ!?」 レッドは何をするかと思えば、ポケモンを出した。 「フ…フシギダネ ルナはビックリして「え?」と声を出す。 「切りさけ!はっぱカッター=I」 「ちょっ! それはなんというかバイオレンスです!!」 ゾンビコダックの額辺りに葉っぱが刺さる。 が、平然と動く。 「…き、きいてない」 「そ、そりゃそうですよ! だってユーレイなんですよ!? もう死んでるから不死身です! あれでももう死んでるから不死身とは言わな」 「くそっ、それなら動きだけでも止めるぞ!ねむりごな≠セ!」 「うう……軽やかに無視されました」 粉がまんべんなく綺麗にばらまかれる。 今度こそどうだ、とハラハラしながら手に汗握る。 しかしゾンビ達はまた平然と動く。 「動きが止まらない!? な…なんで〜〜!」 「ひぃ!?」 「攻撃しても全然きかない! 眠らせることもできない!! …ど、どうすれば…!?」 「れ、レッド君、ゾンビが来ます!」 「わあっ!」 レッドが目を伏せてしまう。 ルナは怖がりながらも、フシギダネと目を合わせる。 するとフシギダネはツルを使ってコダックを締め付ける。 レッドは目を開けた時、コダックの変化に気付く。 「こいつ…。くさってる…」 コダックは半分腐った毛で、もう半分は骨が出ていた。 しかも飛び出た目玉のおまけ付きで。こんなおまけはいらない。 ルナはもう我慢が出来ず、涙で目を潤ませる。 ゾンビコダックはツルでバラバラになり、砂の様になってしまう。 「死体が動くなんて…。もしかして、こいつらあやつられてるんじゃ…」 「! 死体……」 レッドが操っている者を探している時、ルナは墓をまんべんなく見渡す。 じゃあ、このゾンビ達は皆墓の中の死体? 「レッド君! もうゾンビ達を傷つけないで下さい!!」 ルナはフジ老人のドードーの様に、大切にしてもらっていたポケモン達の死体を壊したくないと思ったのだ。 レッドは少し驚いた様に、目を見開いた後に微笑む。 そしてルナの頭を乱暴に撫でる。 「わっ」 「分かってるって!」 ルナはレッドに撫でられた頭を不思議そうに触れる。 レッドは左右を良く見る。 「くそっ、霧がたちこめていてよく見えないぜ」 するとゾンビポケモン達が一斉に襲いかかってくる。 「うわっ!」「きゃっ!」 急いでゾンビ達から逃げ出す。 怖さで動けないルナをレッドが引っ張ってゾンビポケモン達から引き離す。 「くそっ! 逃げろ、ルナ! フシギダネ!」 霧の外へと出る。 だが、ゾンビポケモン達の気配が無くなる。 レッドが不思議に思い、後ろを振り返ると、霧の中でゾンビポケモン達がうろうろしていた。 「あれ? ここまで…来ない?」 「むしろ、私たちがこちらに来たことに気づいてませんね……」 「もしかして…こいつらの動ける範囲は、この霧の中だけなのか?」 「という事は……」 「死体たちをあやつっているのは、この紫色のガス体か!」 「ですね!」 霧は、紫色のガス体だったのだ。 どうりでこんな所に霧が出るなんておかしいと思った。 二人はニヤリと笑う。 「よーし、本体さえわかればこっちの…」 もんだ。そう言おうとした所で炎の様なものがレッド達に飛んでくる。 レッドが反射的にルナを守る様に、抱き締める。 「わっと、あちちちっ!」 「レッド君!?」 運良く、髪の毛に少しかすめただけだった。 後ろを振り向くと墓が燃えていた。 「!? 炎! …って、まさか…」 炎が飛んできた方向を見ると、二人が知っている人物のシルエットが見える。 「グ、グリーン!」 「グリーンさん!」 「おまえ、無事だったんだな! よかっ…」 言いかけて、炎が飛んできてレッドとルナが巻き込まれる。 『!?』 これには、さすがにルナを抱き締める暇は無く、ルナにも攻撃が当たってしまった。 「な、なにすんだ! オレはともかく、ルナは女の子なんだぞ!」 そうレッドが怒って反論するも、グリーンは何も言わずに黙っていた。 そのグリーンの目は死んだ様で、口元は不敵に笑っていた。 ルナが見たグリーンの笑顔とはかけ離れていた。 当にグリーンなのかどうかさえ疑わしかった。 「グ…グリーン!?」 「グリーンさん……?」 消えてしまった貴方の笑顔 (貴方は……誰?) 20120930 ←|→ [ back ] ×
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