ルナはグリーンと別れた後、ちょこちょこ寄り道をしたり迷子になったりしながら自分のペースで進んでいた。

一人の旅は少し寂しかったが、ポケモン達が居てくれたのでそれも和らいだ。

そろそろ休憩しようかという時に冷たいものが頬に付く。

「雨?」

空を仰ぐと、確かに黒い雲が空を埋め尽くしていた。

念のためロコンだけをボールに戻す。

「あ、私折り畳み傘持っていたんでしたっけ」

ルナが花柄の傘をさす。

ルナの肩が定位置なピカチュウはルナと相合い傘の様に感じ、ご機嫌になる。

ピカチュウが頬に擦り寄ってくる。

ピカチュウの温もりを感じ、肌寒い雨模様の今はとっても嬉しかった。

シオンタウンに入った時にはもう、どしゃ降りになっていた。

雨の日というのは憂鬱になる物だが、ルナはシオンタウンに入った瞬間に嫌な予感みたいなものがした。

人々から嫌悪感を感じるのだ。

よく見ていると疑心暗鬼の様なものでもあるのかもしれない。

まぁ、とにかくシオンタウンの人達はお互いを避けあっているというか  

ぼんやり考えていると、誰かと勢い良くぶつかる。

「あ、すみません!」
「ご、ごめんなさ  
「ルナ!?」「レッド君!?」

また凄い偶然だった。

「お前、一人でここまで来れたのか!」
「ええ、お陰様で!」
「入れて貰って良いか?」
「勿論」

レッドはルナと相合い傘になるなんてこれっぽっちも考えず、躊躇いもせずルナの傘に入る。

ルナはルナで何も気付いてないのだが。

「今、どっか雨宿り出来そうな所探してたんだ!」
「なるほど」

レッドが適当な人に声をかけようとする。

それに合わせてルナも走って近付く。

「あ、あのすみません」

だが軽やかにかわされる。

「よーし、今度こそ! あの…」

また見事に軽やかにかわされる。

「なんだあ? この町の人、なんでこんなに冷たいんだよ!?」

レッドは不満そうだが、ルナは不思議そうな顔で首をかしげる。

先程からずっと不思議だったが、こうして実際にかわされる瞬間を垣間見ると尚更不思議に思う。

「何かを避けてるんでしょうか?」
「ホッホッホ、みんな疑心暗鬼になっとるのじゃよ」
『うわあああ!?』

一緒に声を張り上げる二人。

まさかいきなり声をかけられるとは思わなかった。

振り返ると、杖を持った老人がとても優しく目を細めて立っていた。

全然、気付かなかった。

そういまだに跳ねている心臓を落ち着かせようとしながら思う。

「あの…何をしているんですか?」
「ホッホッ。供養じゃよ、供養」

レッドに肘でつつかれ、そちらを見ると小声で「供養って何?」と聞いてくる。

「供養って言うのは仏様や死者の霊に物を供えたり、お経を読んだりして回向することです」
「なるほど、わからん」

カイコウって何。

「かわいがっていたポケモンが、寿命で死んでしまったのでな…」
「それ…、ポケモンのお墓なんだね」

レッドは悲しげな顔をした後に、静かに手を合わせた。ルナはお墓が濡れない様に傘を置き、手を合わせた。

「ありがとう。キミ達もポケモンが大好きのようじゃな」

そして老人は、立ち上がり二人を自分の家と招き入れた。


* * *



フジ老人宅。

フジ老人  ルナが聞いてわかった  の家は不思議な形をしていたが、内装はスッキリとしていて住みやすそうな家だった。

レッドとルナはフジ老人に借りたタオルで濡れた体を拭いていた。

フジ老人氏は温かな紅茶を注いでくれていた。

「この町はの…、昔から死んだポケモンの霊が集まる場所といわれとる」

それを聞いたルナがピカチュウの体を拭いていた動作を止める。

「そんなポケモンの霊をなぐさめるために建てられたのが…ホレ、あのポケモンタワーじゃ」

窓の外には高くそびえる大きなタワーが堂々とそびえ建っていた。

だがどこか不気味さも兼ね備えていた。

「つまり…、あの建物はポケモンの…お墓?」
「そうじゃ」
「でも、じゃあなんでおじいさんはあそこにお墓を作らないの?」
「わしだけじゃあない。もう誰もあのタワーに近づこうという者はおらん…」

何でなんだ、と思いながらフジ老人の顔を除き込む。

だがしかし嫌な予感しかしなかった。

「出るんじゃよ」
「…出る?」

ゴクリ。そんな音が聞こえるんじゃないかという感じの顔でルナはフジ老人を見つめる。

「幽霊じゃ…」




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