ここは夢の中だろうか。

ふわふわと体が浮いている様で気持ちが良い。

誰かが自分の目の前に表れる。

見た瞬間、懐かしさを感じた。それと同時に涙が溢れだす。

気がついた時には声を出していた。

「パパ、ママ……!?」

小さな頃に見た姿そのままの容姿でこちらに微笑みかけて来る。

嬉しくなり、抱き締めようとそちらに向かう。

  

「!?」

パパとママは泡の様に一瞬にして消えてしまった。

抱き締めようとした手を眺めながら先程とは違う涙が溢れてくる。

声にならない声をあげる。

独りぼっちになった  

嫌だ……嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ!!!!


* * *



ガバッ!

ゴン!

  っ!!』

恐怖で夢から覚め、勢い良く上体を起こすと、目の前の何かに思い切り当たる。

あまりの痛みに声も出なかった。

しばらくうずくまっていると、ひょいと猫の様に後ろ襟を引っ張られる。

「何をする!」
「ぐ、グリーンさん!?」

目の前には見知った顔、グリーンがいた。

こんな所で何をしているのだろうか。

「と、言うかここどこでしょう? あれ、レッド君は?」

辺りをまんべんなく見渡すが、木々や自然が溢れているだけだった。

「ここはクチバ近くの森だ。レッドは知らん。オレが来た時にはもう居なかった」
「そ、そうですか」
「………何か悪い夢でも見たのか」
「え?」
「汗、びっしょりだぞ」

そう言われて頭を触ってみると、確かに汗がべったりと手にくっついた。

今回のはいつもと趣向の違った夢で、少し驚いただけ、だと思いたい。

眉をひそめて、押し黙ってしまうルナを訝しげにみるが何も聞かないグリーン。

そんな所に不器用ながらに優しいグリーンの心が見える。

「じゃあ、俺はもう行くぜ」

そう言って踵を返し、クチバに向かおうとするグリーン。

だが、それは何者かによって阻止される。

突然の事に驚き、ふと、下を見るとルナが上目使いで目を潤ませた子犬の様なルナが自分の服を掴んでいた。

正直、悔しいが可愛いと思ってしまった。

「行かないで下さい〜」
「し、知るか!」
「置いてっちゃ嫌です〜」
「知るか!!」
「独りは……もう嫌なんです」
「!」

涙が頬を伝う。

最近泣いてばかりだな、なんて自分で自嘲する。

そして、静かにグリーンから離れる。

「………ごめんなさい。我が儘言って。どうぞ私にはお構い無く進んで下さい」

そう言って目を反らす。

すると視界に自分より大きくたくましい手が映る。

「ほら」
「え……?」
「一緒に行くんだろ? 早くしろ」
「は、はい!」

グリーンの手を掴み、立ち上がる。

やはりグリーンは口下手だが優しい人なんだとルナは思う。


* * *



「良いのか、ここまでで」
「はい。森で無ければ迷子になりにくいですから」

表情を暗くして「それに」と言葉を紡ぐ。

「人に甘えてちゃいけないですよね」
「お前は」

鋭い目付きでこちらを見つめられる。睨むという訳で無く。

不思議と言葉を発する事が出来ない。

緑の瞳に、吸い込まれてしまいそうだった。

「お前は独りじゃない。……覚えておけ」

グリーンがいままで見たことの無い位の優しい笑顔をルナに見せる。

瞳からまた涙が出てきそうだったが、必死に拭う。

「……っはい!!」


緑の優しきあの人
(私には貴方もいる)


20120930

[ back ]
×