特訓を終え、カスミと別れたレッドとルナは共に24番道路と25番道路の間の森の中に居た。 レッドは腰のベルトにモンスターボールをこれでもか、というほどに携えていた。 どうやって付いてるのかも分からない位の量だった。 とうとう腰から一つボールがこぼれ落ちた。 「うーん、そろそろボールの持ち運びがキツくなってきたぞ」 「沢山捕まえましたもんね」 「ああ。はりきって捕まえまくったはいいけど、この先、どーすりゃいいんだよ?」 「う、うーん?」 ポケモンを捕まえた事が無く、家のポケモンも庭で放してある為、ルナにはそんな知識は無かった。 ルナが首を捻っている中、レッドは落としたボールを追っかけていた。 「おっとっと…。ん?」 「どうかしました、レッド君?」 「あれって…、コラッタだよなあ。でも、なんかヘンだぞ」 「でも可愛らしいです!」 レッドとルナの目の前には小さなコラッタが居た。 そのコラッタはちいさな木の一部を運んでいた。 一生懸命なその姿は、ルナが言う通り可愛らしい。 「きっと新種のポケモンだな。すげえぞっ!! よーし!」 「レッド君、乱暴してはダメです!」 その時だった。 「ふいーっ、まったく火おこすのも一苦労や」 ………。 『へ?』 「ホンマにこんな板きれ一つ、人間やったら一発で運べるっちゅーのにな」 コラッタは腰に手を当てて、そう言った。 言っ、た? 「ポ…ポケモンが」「コ、コラッタが」 『しゃべったあ!?』 「!」 レッドとルナが一緒になってわたわた慌てる。 それもそうだ。 髪の毛の様なものが生えているコラッタが人間の言葉を話すのだ。 ポケモンが人間の言葉を話せたら言いなあ、とは思った事はあるが、いざ話されると少し怖い。 「ひっ、人や人や! こんなへんぴな所、誰も来てくれへんかと思たわ」 「あ…あ…」 「……っ」 「たすかったあ〜! 兄ちゃん、姉ちゃん、ちょっと手ェかしてや」 てきぱきとコラッタもどきが喋るが、レッドとルナは口をぱくぱくとさせるだけだった。 「そやったな。このカッコウじゃ驚くわな」 そりゃ、もう。 「ええか? わいは今でこそこないな姿やけど、その正体はポケモン評論家! 岬の小屋のマサキ…」 刹那。 レッドとルナの目の前からこつぜんと姿を消す、自称ポケモン評論家のコラッタマサキ。 いや、消えたのでは無い。 オニドリルというポケモンにエサとしてテイクアウトされたのだ。 「ちょっと兄ちゃん、姉ちゃん! ボーッと見とらんで助けてえな!」 「助けるったって…」 レッドがチラリと自分のポケモンとルナを見る。 ポケモン達は力強く頷き、ルナは「助けましょう!」と言った。 「しょーがねえな。ま…まてーっ!」 「待って下さい、オニドリルさん!」 「ポ、ポケモンにさん付け!?」 こうして、レッドとルナのオニドリルとの鬼ごっこが始まった。 ダジャレでは決して無い。 「まずは、オニドリルの動きを止めなくちゃ! ルナ!」 「はい!」 「フシギダネ!はっぱカッター=I」 「ロコ!火の粉=I」 だが、オニドリルは容易に避けてみせる。 「ア、アホ 結構な距離があるのに関わらず、耳がキーンとする位の大声で怒るマサキ。 「兄ちゃん、姉ちゃん、覚えとき。飛行ポケモン相手なら、凍らすとかしびれさすとかで、まず翼を封じるんや。そないな草ポケモンと炎ポケモン、役に立つかっちゅーの!」 それを聞いてフシギダネとロコンが怒った様な顔をする。 ロコンが吠えるので「まぁまぁ」とルナがなだめる。 「なんや、おるやないけ。その3匹使いいな」 「助けてやろうってのになんて奴だ」 「まぁまぁ!」 「えーい、しょうがねえ!れいとうビーム=Iでんじは!!」 「電気ショック=I」 今度は成功か。 そう思いきや、攻撃はコラッタマサキに全て当たってしまった。 肝心のオニドリルは涼しい顔をしていた。 「あちゃあ…」 「あ……」 「こっちに当ててどないすんねん! 死にかけたやないか また文句を言うマサキにレッドが怒った様に睨む。 「まぁまぁ」とまたレッドを静止させる。 喧嘩腰なマサキと挑発に乗りやすいレッドに苦労するルナ。 「とにかく空飛んでるんやさかい、このままじゃラチがあかん。止まったとこ狙うてや!」 「そんなこと言われたって…」 「どうしましょう……」 ふと、レッドが空を見上げて、いきなり声をあげる。 「そうだ! ピカチュウ!」 「どうしたんですか!?」 レッドのピカチュウが思い切り上へと跳んでいく。 上には雷雲。 「! 成る程!」 「え!?」 レッドが何をやろうとしているか気付いたルナに反して、マサキが驚く。 「下からがダメなら上からだ!」 「ムチャしたらアカン!」 きゃーっ、と女の子の様な声を出すマサキ。 そして雨雲とコンボしたピカチュウの電撃がオニドリルへと落ちる。 反動で、マサキがオニドリルから離れる。 なんとかマサキにはダメージは食らわなかった様で、ルナはほっと胸を撫で下ろす。 「やった!」 「わあああ!」 オニドリルが勢い良く地面に叩きつけられる。 「おっとお」 レッドはルナが危なくない様に、片腕を広げて守る。 そんなさりげない気づかいにドキリとするが、そのドキリとした本人が全く気付いていないので意味がなかった。 オニドリルは感電して焦げていた。 「へへっ、さすがにあれを食らったらもう動けないだろ」 丸焦げなオニドリルがちょっと可哀想だな、と思ってじっと眺めていると、いきなり目を開ける。 そして翼を思い切り広げた。 「うわあっ!」 「きゃあっ!」 同じ時、マサキが岩の空洞の様な所で目を覚ます。 「う…うーん。あたたたた…」 ふと下を除き込むと、レッドとルナがオニドリルに追い詰められていた。 するとオニドリルは不思議な体勢になる。何かを構えている感じだった。 「ア、アカン! 兄ちゃ レッドがその言葉を聞いて、はっとした顔になる。 だが、オニドリルはスゴいスピードで回ってこちらにくる。 それに対して全く怖じけずにニョロゾと共に構える。 「レッド君!?」 このままではニョロゾにオニドリルのくちばしが刺さってしまう。 ルナはレッドが何をしたいか分からずオロオロするばかりであった。 刹那、パキという音がしてニョロゾを見ると、予想通りの図になっていて思わず目を閉じてしまう。 マサキも同じように一瞬目を閉じ、おそるおそる見てみると、ニョロゾは消えていく。 『!?』 そしてオニドリルがくちばしから凍っていき、身体中を氷が覆う。 ニョロゾの方を向くと、ニョロゾが居たと思っていた後ろに、本物のニョロゾが居た。 「ふう」 「カゲ…ぶんしん?」 「来る技がわかってたからなんとかなったよ。サンキュ!」 「命ちぢんだわ」 「ホントですよ……」 ←|→ [ back ] ×
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