どんな夢か、ハッキリ覚えている。 『ロケット団』。その言葉を聞いた日には絶対その夢を見る。 無意識に頭を触ると、汗が手に付きしばらくそれを眺めていた。 充分眺めた後で、辺りを見回す。 スッキリとした内装。見馴れたポケモンのヌイグルミ。 カスミの部屋で一緒に寝ていた事を思い出す。 だが、隣を見てもベットには畳まれている毛布が乗っているだけだった。 どのくらい眠っていたのだろうか。 ヒトデマン型の時計を見る。 二時……半。 「え……、え!?」 思わず声を出して時計をひったくる。 寝過ごした、なんてレベルじゃない。 カスミもカスミだ。起こしてくれれば良いものを。 きっと変に気を使ったのだろう。 急いでパジャマからいつもの服へと着替える。 * * * パタパタとスリッパの音をたてて、大広間へと向かう。 『おはようございます、ルナ様』 「あ……、おはようございます……。じゃなくて! カスミとレッド君はどこに!?」 ノリツッコミの様な事をするルナ。 そのルナの言葉に「ああ」とメイド達が顔を見合わせる。 いや、「ああ」じゃなくて。とまたツッコミそうになるがなんとか堪える。 「お二人ならハナダジムへ行きましたよ」 「へー、ハナダジムですか」 ハナダジムへ行きましたよ。 ハナダジムへ行き。 ハナダジム。 ハナダ。 「えええぇぇぇぇ!? ハナダジムへ!?」 突然大声を出したルナに、メイド達がびっくりした様に肩を震わせる。 「え、えぇ。レッド様がハナダのジムリーダーに挑戦するとおっしゃってカスミ様が連れていかれました」 「レッド君が……!?」 しまった、遅かったか。 そう思って、体が自然と玄関へと向かっていた。 「ルナ様!? お食事は!?」 返事をする事も忘れ、足はとにかくハナダジムへと急かす。 * * * 町のはずれにあるハナダジムはカスミの家から近からず遠からずの距離だった。 その距離をルナは走っていた。 途中人にぶつかっても、軽くしか謝らない位ルナは焦って走っていた。 飛び出してきたのでポケモンも持たず手ぶらで。 そしてようやくハナダジムへ到着した。 もともと体が弱めで、体力が無いルナは肩で息をしていた。口は水分が欲しそうに空いていた。 だが早く止めなければ。 争いでは何も産まないのだから! そう意気込んで、ジムの扉を思い切り開けて、誰も居ない道を走って進む。 奥の部屋に近付いてきた頃に微かな物音が聞こえてきた。 奥の扉を一瞬躊躇って開けると、中から水が溢れてきた。 「うわっぷ」 まともに水を被ったルナは全身びしょ濡れになる。……風邪を引きそうだ。 やっと水が引いた頃に周りを見渡すと、レッドは戦闘不能間際のフシギダネと一緒に呆気に取られていた。カスミは体を震わせ、俯いていた。 「あなたなら…。あなたなら、私達の気持ちわかってくれると思ってたのに…。一緒に戦ってくれると…」 カスミ……。 ぽそりと、か弱いハナダのジムリーダーの名前を呟く。 「今のこの攻撃でさえ、オツキミ山での戦いでは通じなかった…」 そう言いながら、スターミーを撫でる。 「本気に…、本気にならなきゃ、あいつらには勝てないのよ! 対抗するには強くならなきゃならない! もっと、もっと…!!」 カスミの涙が溢れ出る。 そして涙を流しながら、地べたに座り込む。 「そうだな。デートしてる場合じゃねえよな…。モチ! 泣いてる場合でもねえぜ」 「!」 「………ルナもな!」 「え……!?」 いきなり目線をこちらに向けられ、驚くルナ。 カスミに手を貸した後、ルナにもその手を差し伸べる。 「な、何で私がいるって?」 「へへ、何でだろうな! なんとなくルナが居るかな、って!」 照れくさそうに言う彼に、思わず抱きつく。 「 「ごめんなさい! 昨日はいきなりぶって!」 「いや、オレの方がゴメンな。ルナを傷付けた……」 一緒に笑いあう。 少年と少女の絆は、より一層固くなった事だろう。 「よーし、特訓だ!」 * * * 数日後。 カスミとレッドは握手をし、カスミとルナは抱き締めあった。 「いいんですの? お別れして?」 「ええ。この1週間でお互いの技はすべて覚え合ったし、あとはそれぞれ別の方法で鍛えないとね。次に会う時が楽しみだわ」 そう言って、優しい笑みを浮かべるカスミの姿は綺麗だった。 「んじゃ、まったなー」 「またね、カスミ!」 彼女達の涙 (その後に結束する絆) 20120923 ←|→ [ back ] ×
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