黒髪の少年は真っ赤な顔で咳払いをする。

「リュウ……だ」
「リュウさんですか!」
「い、いやオレはさん付けじゃなくて良いよ……」
「え、じゃあ……リュウ君」

そう言えばリュウの顔は先程より一段と赤くなる。

それを見てルナが不思議そうに首をかしげる。

「あ、そうだ。私、オツキミ山へ行くので」
「! ……オツキミ山に?」

いままで顔を赤くしていたリュウが突然目を細め、別人の様な顔をする。

トキワの森でもあった事だった。

見るだけで恐怖心が湧いてくる位鋭い目付き。

ルナは反射的に唾を飲む。

「あ、あの?」

その時、リュウがいきなり笑顔になる。

「そうだ、空飛んだ事あるか?」
  え、無いです……」
「じゃあハナダまで空の旅に招待しよう!」

「オレ飛べるポケモン持ってんだ!」とベルトからボールを外し、見せてくれる。

その貼り付けた様な笑顔がなおさら恐ろしい。

「あ、あの、でもオツキミ山のピッピを見たいので……」

嘘を吐くのは抵抗があったものの、恐怖から逃れるにはこれしか無いと思って出てきた言葉だった。

「ピッピなんていねーよ」
「え?」
「いるのは黒い  

後はリュウが出したカイリューの羽ばたく音で聞こえなかった。

「黒い」この言葉に何か引っ掛かるものがあった。

「ほら、乗れよ!」

手を差し出すリュウの顔にはもう貼り付けた笑顔は無かった。素直な笑顔だ。

返事をする事も忘れ、吸い込まれる様に手を伸ばす。

素直な笑顔に心を動かされた。少なからずそれもあった。

だがルナが手を伸ばしたのは、そうしないといけない気がしたのだ。

あぁ、やっぱり自分はこの人『苦手』だ。

カイリューに乗りながらそう思った。


* * *



「ほい、とーちゃく。楽しかったろ?」

正直、空の旅と言っても全く楽しめなかった。

カイリューの背中が温かいなと思って、それだけだった。

「じ、じゃあ、ありがとうございました!」
「ん。じゃあな、迷子になんなよ!」
「な、なりませんよっ……」

ハハ、と笑ってからまたカイリューに乗って飛んでいってしまった。

「なんか、やっぱり苦手かも……」

そう眉を八の字にすると、素直に楽しんでいた二匹は何が苦手なんだという顔をする。

「何でもないよ」と苦笑いを浮かべながら首を横に振る。

それからすぐにぱっと向日葵が咲いたような華やかな笑顔になって、

「久しぶりにカスミに会おっか!」

と言うと2匹は嬉しそうに鳴き声をあげる。

とりあえず、今は考えない様にしよう  

2匹と一人は走り出し、真っ直ぐにハナダヘと向かって行った。


再会と苦手意識
(だけどまた話してみたい)


20120909

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