「皆さんが言いたい事は分かってます」 ルナがいきなり立ち止まる。 その後ろ姿につい見入ってしまいそうになる。とても小さな背中と狭い肩幅に、つい抱き締めたくなってしまう。 気持ちいい風が右側に結われた髪をなびかせる。艶やかで触ってみたくなる。 ついでにスカートもなびく。鉄壁すぎて下着は見えなかった。残念。 そして向き直ると、至って真面目な顔で言う。 「また、迷子になってしまいましたね……」 言葉が使えるならば「しまいましたね」じゃねぇよ、と言いたい。是非言いたい。 だが自分等の主はふんわりと笑ってこっちを見てくる。 「でもなんとかなります、きっと!」 その自信はいったいどこから出てくるのやら。 ピカチュウとロコンは溜め息を吐くしか無かった。 あのニビの後、出ようとした時に林檎を買うか買わまいか迷ってしまったのが運のツキだった。 レッドとはぐれてしまったのだ。 本当なら迷子は動かずその場所で待っているものだが、ルナはついじっとせず、先(?)に進んでしまった。 とはいえ、レッドはレッドできっと先に進んでいるだろう。 「頑張れば私達でも次の町に着きますよ!」 説得力が皆無だった。 * * * 奇跡、そう言えるだろう。 なんとなんと本当にルナと2匹でオツキミ山付近までやって来れたのだ。 ただ 「ハァハァ……っ。やっと来れました……」 そう言いながら2匹に「だから言ったろ」みたいなどや顔を見せる。 だが普通、1時間で行ける所を2時間以上もかかってしまった。 そんな事でポケモンも自分もボロボロで、休める所を探す。 「あ、あそこにポケモンセンター発見!」 ルナにしては珍しく2匹をボールの中に入れてポケモンセンターに突っ走って行った。 扉を勢い良く開け、パタパタとカウンターに座っているピンクの髪の看護師に渡してすぐにパソコンへと忙しなく向かう。 機械 「おお、今度はルナか。久しぶりじゃのう」 「今度は? レッド君かグリーンさんも?」 「ああ。レッドが1時間ほど前にな」 意外だ。 レッドはグリーンと違い、まめな方で無いと思っていたのに。 何か相談事でもあったのだろうか。 「そうそうルナ。ポケモン図鑑はどうじゃ? 集まっとるか?」 「え」 オーキド博士がそう聞くとルナは、買い物に行ってレジに並んでいざ買おうとした時に財布を忘れた事にやっと気づいた様な、そんな顔をする。 「…………ん?」 「……」 「……ポケモン図鑑を見せてみろ」 ルナは無言で首を横に振る。その顔には汗が滴っていた。 オーキド博士はその反応で全てを悟った。 ポケモン図鑑の事を忘れていたな。 それを言ったらまた首を横に振るだろうが、オーキドには充分過ぎる位に伝わった。 「……ポケモン図鑑は 「あっ、博士、それでは私はハナダに向かいますので。それでは!」 ブチッ。 切られた。 オーキドは研究所で溜め息を吐く。深い深い溜め息だった。 別に図鑑完成を催促したかったわけでは無かった。 ポケモン図鑑はゆっくりで良い。そう言いたかっただけなのだが。 オーキドは年の功というか、長生きしてる為、ルナの事は本人が自分の事を知らなかった頃から知っていた。 ルナは親無しで良くここまで頑張ったと思う。 勉強や家事、家のポケモンの世話。全てこなしてみせた。 勿論、ルナが努力家である事なのだろうが、色々大変な事も寂しくなる事もあっただろう。 だから、そんなルナには楽しく旅をして欲しい。そう思った。 少なくとも * * * 「ポケモン図鑑の事、すっかり忘れちゃっていました……」 落胆した顔で2匹をボールから出す。 その顔を見て2匹は不思議そうな顔をして覗きこんでくる。 「なんでも無いよ!」と努めて明るく言ったが、まだ辛そうな顔をしていた。 「えっと、オツキミ山は 「何やってんの、お嬢さん?」 ふと、見知った声が聞こえてくる。 この声は 「あ!」 「よう、歩くポケモン図鑑」 ニビまで案内してくれた少年だった。 「名前!」 「あ?」 「名前教えて下さい!! あ、私はルナです!」 「分かったから顔近いって!」 ←|→ [ back ] ×
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