カーンとゴングが鳴り、ルナはロコンを出す。

それを見て男は口角を上げていやらしい笑みを浮かべる。

「炎タイプなんて相性の悪いポケ」
「ロコ、妖しい光!!」
「スルー!?」
「からの火炎放射!!」
「オーイさらにスルウゥゥ!?」

ゴローンは戦闘不能になる。

ルナはまた無意識にロコンとハイタッチを交わして男をスルーするので、男は「もう良いよ!!」と言ってリングから出ていった。

それからも火炎放射≠ナ敵を倒していった。

ルナが敵を倒していくにつれて、周りも盛り上がっていく。

ルナは周りに『スルーの天才』『火炎姫』『相手(人間)の調子を下げる事についてはチート』とか変な愛称を付けられているが、本人が気づいていないから良しとしよう。

あれよあれよと言う間に、ルナはジムリーダーのタケシと対戦する事になった。

「すげーじゃん、ルナ!」
「いえ……」

先にバッジを手に入れたレッドに誉められ照れた様に笑うルナ。

その時、ガタガタと腰のボールが揺れる。

「ど、どうしたんですか、チュカ?」
「………多分、多分だけどさ、チュカはジムリーダーと戦いたいんじゃないか?」
「え!?」
「だっていままでロコンでしか戦って無かったじゃん」

じっとチュカを見つめると、真っ直ぐな目でこちらを見てくる。

確かにその目はやる気が満ち溢れている目だった。

ふと出かかった「相性が」という言葉を飲み込む。

さっきのレッドの戦いを思い出すと「相性が」なんて言ってられないと思ってくる。

「…………よし!」


* * *



リングに立つと、周りの人達が気づいたのかまたもやざわめき始める。

きっとルナの肩に乗っているポケモンの事だろう。

タケシもリングに上がってくる。そしてタケシも気づいたのか少し驚いた様に糸目を動かす。

「まさか、肩に乗っている『ピカチュウ』で挑むのか?」
「ええ」

タケシが言いたい事は鈍感なルナでもすぐわかった。またか、とでも言いたいのだろう。

そしてゴングが鳴る。

「影分身!!」
「! ひるむなイワーク!!」

ピカチュウの姿が無数に増える。

イワークはどれが本物のピカチュウか分からず、キョロキョロとするばかり。

「ちょこざいな!岩落とし≠セ!」

岩が落とされたピカチュウの分身は消えてしまった。

だが、

「それも計算の内です!! 後ろにまわって尻尾で叩きつけ≠ト!」

叩きつける≠ェモロにイワークへとヒットしイワークの体がバラバラになる。

「よし!」
「フッ、甘いな」
  !?」

バラバラになった岩はそのままピカチュウへと降ってくる。

ピカチュウは岩に潰される。効果は抜群だ。

「チュカ!!」

まさか自分の体で岩落とし≠するなんて。

ルナは自分の不甲斐なさに唇を軽く噛む。

だがいつまでも引きずっている場合でも無い。今はポケモンを信じて戦うべき時だ。

「……」
「どうした、手も足も出せないか?」

イワークは元通りに体が直っていく。

「いえ。です」
「逆……?」
「はい。貴方が……手も足も出せないんですよ」
「何!?」

タケシはイワークに向き直ると、イワークは苦しそうに顔を歪めていた。

見ると、イワークの岩の一個は電気を纏っていた。

「先程ピカチュウが岩に潰されている時に電気を浴びたんです!」
「だが言葉なんか発してないじゃないか……!」
「ピカチュウとは長い付き合いだからか言葉なんて発し無くともアイコンタクトだけで指示が出来るんです」

「こんな風に」とでも言う様に、ピカチュウが電気を放っているかと思えばそれをイワークに浴びせる。

「……10万ボルト」


* * *



「結局、グレーバッジを手に入れたのはオレとグリーン、ルナだけか」
「そうみたいですね」

二人でグレーバッジをまじまじと見つめる。

「ありがとな、ピカチュウ。おまえのおかげで勝てたぜ」

だがピカチュウはいまだにツンとしていた。

「こいつらはニョロゾとフシギダネ。オレの大切な仲間だ」

ルナがニョロゾに気が付き、はじめましてとお辞儀すると、ニョロゾも律儀に返してくれる。

「おまえも今日からオレたちの仲間だぜ」
「………」

ルナがレッドの言葉を聞いて、自分自身に指を指す。

正直、その仕草は散歩に行きたい犬──もとい、ガーディの様で可愛かった。

「私は……?」
「ルナも仲間だ!」
「やった!」


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