「あ、レッド君」

視線を少し下げると、バタバタとレッドがこちらに走ってくる。

「どうしたんですか、レッドく  !?」

いきなり手を掴まれ、そのまま引きずられる様に引っ張られる。

少し腕が痛かったが、その前に状況が咀嚼出来ず、されるがままに引っ張られて行った。


* * *



いきなり止まった時には、ニビシティの外れ辺りに着いていた。

なんなんだと聞く暇も与えずレッドはピカチュウをボールから出した。

そろそろスルーはルナには辛かった。

「あの……」
「オレは今からピカチュウをなつかせようと思う! 手伝ってくれるか!?」
「え……、あ……はい」

今のは断りたくとも断れないぞ、とレッドがピカチュウに話しかけている間にルナは思っていた。まぁ、もとより断るつもりは無いが。

「いっつ!?」
「だ、大丈夫ですか!?」

どうやらレッドはピカチュウに触れよう様とし、電気を浴びせられたらしい。

「大丈夫大丈夫」とルナに言い、ピカチュウへと向き直る。

「…強情なやつだなあ。ちょっとは仲良しになろうぜ〜」

が、ピカチュウはつんとしている。

「なっ、ピカチュウ」

語尾にハートをつけて周りにもハートを飛ばす。

ルナはその姿を見て、

(可愛い……!)

と思ってしまう。

それでもピカチュウはつんとしていた。

「うあっち!」

今度は先程よりも強い電撃をレッドに浴びせる。

ルナはその様子を見て、何かが出てきそうだった。……なんだったか。

ピカチュウがつんとしていて  

「く  っ、かわいくねえなあ〜」
「あ、思い出しました!」
「わっ、ビックリしたーっ、何だよ」
「『ツンデレ』ですよ!」
「ツンデレ〜?」

至って真面目な顔で『ツンデレ』と言われても何と返せば良いのかわからなかった。

そんな事をレッドが思ってるなんて微塵にも思わず「はい、ツンデレです!!」と自信満々に言う。

「この間、本で知ったばかりなんですが、ツンデレというのは、本当は相手が好きなのにそれとは裏腹な事を言ったり、してしまう事なんだそうです!」

「じゃあピカチュウは……!?」とでも言って欲しいのだろうか。

「いや、いくらなんでもそれは……」
「ずいぶんとのんびりしたもんだな、レッド」

そんな阿呆な会話をしていると、少し低めの声が聞こえてくる。

「! グリーン」
「ん? お前……ルナか!?」
「お久しぶりです、グリーンさん!」

ルナは嬉しそうに立ち上がるが、グリーンは苦虫を噛み潰した様な顔をする。

その顔に首をかしげる。

「なんですか?」
「お前、図鑑をもらったんだってな」
「はい、光栄な事に!」
「お前に旅が出来るのか……?」
「…………へ?」

「だってお前」と何かを思い出す様な仕草をする。

「運動神経はまぁまぁだが、体力は無いし、すぐ簡単に迷子になるし、天然だし、常識はずれだし、捕獲は下手くそだし」

グサグサと心に突き刺さるグリーンの言葉。

段々、涙が出てきた……。

「そんなんじゃ二人共図鑑完成にはほど遠いな。お前らと同じく図鑑を作っているライバルとして恥ずかしいぜ!」
「!!」

グリーンのその言葉がムカついたのかレッドが立ち上がり、鋭く睨み付ける。

「なにおお!?」
「おっと、勝負か?」
「あ、あの、お二人共……」

ルナがレッドとグリーンの間でオロオロしているが、そんなのお構い無しに二人は互いににじり寄り、腰のボールに手を伸ばす。

そしてバトルをする  かと思いきや、グリーンはボールを弄び、制止の言葉を述べた。

「まあまてよ、レッド。いいことを教えてやろう。この町のポケモンジムのリーダー、タケシが今、挑戦者を募っている」

ポケモンジム。

聞いたことがあった。

「オレは、やつに挑戦してグレーバッジをいただくつもりだ」
「グレーバッジ!?」
「知らないのか?」

グレーバッジ。それは持っていると自分のポケモンの攻撃力を上げる力を秘めたバッジ、と記憶していた。

まぁ、それがポケモンジムと繋がるとはルナには思ってもいなかったが。

「ポケモントレーナーの常識だぜ」
「くっ…」

グリーンが馬鹿にしたような顔で言うと、「わるかったな」と顔を赤くするレッド。

だがすぐにグリーンの目線はルナへと行く。

そして「お前は知ってたか?」と少し得意気に言う。

「私ですか? 一応、はい、知ってました」
「負けたなレッド」
「くっ……」
「何でそこで悔しがるんですか失礼な」



[ back ]
×