―西の町ニビシティ―

「まてーっ」
「こんちくしょーっ」

レッドとルナが並んで歩いていると、村人が網を持ち、怒りの形相で二人の目の前を通り過ぎてゆく。

「お祭りか何かですかね?」
「いや、それで『こんちくしょーっ』とは言わないと思うぞ……」
「あ、それもそうですね」

ルナの天然ボケっぷりにレッドは渇いた笑いになる。

その時、壁に貼られていた紙がレッドの下に剥がれ落ちてくる。

「ん?」
「何ですか、それ」
「ちょっ、近いって!」

レッドの手元を覗き込んでみると、そこには海賊さながらなピカチュウの手配書だった。

ピカチュウの似顔絵(?)が上手くて、ルナの思考は思わずそちらに向く。

その手配書を自分のピカチュウに見せると、チュカは興味深そうに身を乗り出す。

「ははーん、さっきのさわぎはこいつだな。いっちょ手伝ってやるか」
「あ、待って下さい!」


* * *



レッド達がいた場所の少し先ではガヤガヤと村人達が一同に集まっていた。

大人数とは、正にこの事だった。

という事は村人達が囲んでいるのは手配書のピカチュウなのだろうか。

「とうとう追いつめたぞ、イタズラねずみめ」
「店の商品をいつも台無しにしやがって! もう許さん」

案の定そうだった様で、村人達の中央にはイタズラねずみのピカチュウが攻撃的な眼で村人達を見上げていた。

「それ! 捕まえろ!!」

村人達が一斉にピカチュウへと飛びかかった。

だが、身が軽く小柄なイタズラねずみのピカチュウはそれをなんなく避け、果物屋の林檎をかじり始める。

村人が静かに近寄り、網を被せても、電撃で村人を戦闘不能にしてしまった。

「あっ、また逃げたぞ」
『まてー!』

再びレッドとルナの目の前を通り過ぎてゆく村人達。

「あーあ、イライラしちゃうなあ、もう」
「わあ、似顔絵そっくり!」

レッドは得意気に笑い、ボールを投げながら溜め息を吐く。

ルナは何だか変な事で感動していた。

ボールをキャッチしながらレッドは「よーし」と呟いた。

「行けっ、フシギダネ!」

レッドがボールを放つと、煙をあげる。

それにピカチュウが驚いた様に反応する。

煙があがって可愛らしい瞳のフシギダネが見えてき、周りの村人は歓声をあげる。

辺りがざわついている中、フシギダネがピカチュウににじり寄る。

その時、ピカチュウがニヤリと笑いフシギダネに電撃を浴びせる。

レッドが「くっ」と声を出すと、村人はまたダメかと諦めの声をあげる。

「大丈夫ですよ、彼なら」
『!?』

いつのまにか村人達の側にいたルナはまるで村人達を安心させようとしてるかの様に、ふわりと笑って言う。

村人達はレッドの方を見ると、砂煙が晴れてレッド達が何事も無かった様に立っていた。

ピカチュウは今まで先程の電撃だけで村人達を倒してきたのか、驚いている様な焦っている様な声をあげる。

「よーし、次はこっちの番だ」

余裕たっぷりに言うレッド。

フシギダネに「それ!」と指示すると、背中の種から小さな黒くて細長いものが勢い良く飛び出す。

かと思うと光り、粉となってピカチュウへと撒かれる。

すると、ピカチュウはトローンと眠そうな顔になる。その顔を見てるとこっちまで眠くなってきそうだった。

「よし、うまくきいたぞ。今のはねむりごな≠セ」

そう言いながらモンスターボールを取り出す。

「仕上げは…、ほい」

軽くピカチュウに投げてやると易々とボールに入った。

「よーし、捕まえたぞ!」
「おおお!」
「イヤイヤ、まあざっと、こんなもんだね」
「レッド君、なんか得意気です……」

「ま、実際に凄い事ですよね」と肩に乗っているピカチュウに言うと、ピカチュウは首を捻った。


* * *



あの後、村人がレッドを食事に誘い、レッドがルナも一緒に食べようと言ってきたが、ルナはレッドの手柄なのだからと誘いを断った。

正直、着いていっても村人とレッドの輪の中に入れる気がしなかった。

「私……」

ポケモンフードの袋をしまいながらルナが独り言の様に呟いた。

ピカチュウとロコンは不思議そうに顔をあげた。

ルナがポケモン達に一瞬目を合わせた後、空を仰ぐ。

「レッド君と戦ってみたいな」

「強そうだよね」と二匹に笑うルナは楽しそうだった。

「皆で強くなっていこう。私も、貴方達も」

主の横顔が真剣で、ピカチュウは勿論、やんちゃなロコンまでもが緊張した面持ちになる。

そして、勿論だ、と言う様に力強く頷く。


[ back ]
×