「わかったら、行くぞ。………おい?」

少年がスタスタと行く中、ルナは唇に手を当てて何かを考える素振りをしていた。

「……何だよ」
「あ、いえ。……ガルーラってトキワの森には居ないはずなんですよね。なのに何故  

グイ!

言葉の途中でルナは少年に胸ぐらを掴まれる。

顔と顔とが近い。が、青春というか、恋心は産まれそうに無かった。

むしろ恐怖がまとわりついてくる。

足下ではピカチュウが主の危機を感じ、少年に威嚇をしている。

「あ、あの」
「お前さ、余計な事に気が付き過ぎ。あんまり首突っ込むと痛い目見るよ?」
「は……離して下さい……!」
「………」

少年は黙ってルナを静かに離す。

掴まれた時は、理不尽にキレられたのかと思ったが、少年の瞳を見て何か訳があるのかもしれないと思った。

「ごめんなさい……」
「な、なんでお前が謝るんだよ」

そう言ってもまだ頭を下げたままだった。

ピカチュウまでも不思議そうな顔をして首をかしげている。

どうすれば良いか分からずオロオロするばかりの少年。

「お、おい、とりあえず顔挙げてくれよ」
「いえ、そういうわけには……!」
「いやホントにさ、俺のが悪かったと思うし……」

ズズ  ン。

再び地鳴りが鳴り響き始める。

どうやらガルーラがこちらに近付いて来ているようだ。

「うえええぇぇぇ!?」
「チッ。よりによって……」

少年は舌打ちをして、モンスターボールを構える。

「ま、待って!」
「何だよ」
「このガルーラ……凄く傷ついてる!!」
「ガルーラを捕まえようとした奴が傷付けたんだろ」

それがどうした、という様にルナの言葉に興味無さそうに吐き捨てる。

そんな少年の袖を引っ張る。

「これ以上傷付けないで!」
「…………」

だが少年は聞く気が無いのか、動きを止めようとはしない。

少年はモンスターボールをガルーラに向かって、思いきり  投げた。

思わず「え?」と呟いてしまう。

ガルーラがいた所にはモンスターボール一個だけが転がっていた。

それを拾い上げる少年をただ呆然と見つめていた。

「だから言ったろ? 無用なバトルはしない、って」
「あ……」

とたんに恥ずかしくなる。

そうか。勘違いなのか。恥ずかしいな、自分。

顔がトマトの様に赤くなるルナを見て少年が思わず吹いてしまう。

「わ、笑わないで下さい!」
「はは、ごめん! つい、さ」
「つい、って何ですかっ」
「そんな事よりあそこにお仲間さんがいるぜ」
「え?」

少年の指の先を見てみると、ガルーラがいた場所の向こうにレッドがいた。

レッドの姿を見て、そういえば彼を追ってきたんだっけ、と思ってしまう。

ルナは彼の下へと駆けていく。

「絶  っ対、負けないからなーっ!!」
「レッド君っ」

なぜか叫んでいたレッドの両肩を叩くと、ビクリと震える。

「び、ビックリした、ルナか!」

いきなり呼び捨てでルナも少しビックリした。

叫んでいた方向を向くと見知った後ろ姿が見える。

「あれ、グリーンさんに叫んでいたんですか?」
「え、グリーンの事知ってんの!?」
「はい。オーキド博士の助手だったので、何回か会った事があるんです」
「へー」

ルナは少年を置き去りにしてきたのに気付き、辺りを見回すが誰も居なかった。

でもまた会える。そんな気がした。

「一緒にニビに行っても良いですか?」
「もち!」



「フフフ…。レッド、我が孫グリーン、そして助手のルナか…」

オーキドが陰で三人を見守る様に隠れていた。

「最強のポケモントレーナーへの道は険しいぞ。3人とも頑張れよ」



そしてもう一人、木の上で特定の人物を見守る様に隠れていた。

それから、妖しく笑みを浮かべる。

「オーキド博士の助手、図鑑所有者のルナか……。面白くなりそうだな」


迷子に差しのべられた手
(その手は温かかった)


20120831

[ back ]
×