「夕飯作ってるなら呼んでくれれば一緒に作ったのに」
「ううん。明日、旅に出るお姉ちゃんにそんなことさせたくないし……。それに、一人でもちゃんとやっていけるって証明したかったしね」

パチリと可愛らしくウィンクするリナにキュンとしてしまう姉。

傍でピカチュウが鼻で笑った気がするが全力で気にしない様にする。

「とりあえず、いただきますしよ」
「あ、うん」
『いただきます!』

行儀良く、手を合わせて一礼する。はたから見るとまるでキリシタンだった。

ルナは猫舌を遥かに凌駕するほど、極度の猫舌なのでポテトとニンニクのグラタンはまずパスする。

テーブルに上がっている料理を一瞥するが、どれもルナの好物ばかりだった。

それを思うと目頭が熱くなったが、妹に涙を見せたくないので振り払う。

鮭のホイル焼きは骨が無くて食べやすかった。身が柔らかく、口に入れると自然とほくそ笑んでしまう。

豚味噌ステーキは歯応えのある焼き加減で、それでいて噛みやすかった。

美味しい。美味しい……が、和洋折衷を通りすぎた品揃えだった。バランスが全く合っていなかった。

魚、肉、野菜。

それぞれの好物なのは分かっているのだが……。

「美味しい?」
「ふぇ!?   っ勿論!」
「………良かった」

余程心配だったのか、明らかに不自然な対応にも気にしないで嬉しそうに自分も食べ始める。

少し、いやかなり心が痛くなった。

よし、バランスの事はスルーしよう!

その考えに自分で二、三度頷き、そろそろ冷めただろうグラタンに手を出す事にした。

うん、冷めてる。

どうやら元々、少し冷ましていてくれたらしい。気配りが出来すぎていて涙が出そうだった。

可愛らしいピカチュウのスプーンですくうと、ふわりと良い匂いがし、ルナの気分を高めてくれる。

口に入れるとポテトとニンニクの味が良い感じにマッチしていた。

美味しかった。涙が出るほど。

少し、しょっぱい味がした。


* * *



『ご馳走さまでした!!』

また手を合わせて一礼するキリシタンもどき。

「あっ、片付け……」
「私がやるよ」
「でも  
「お姉ちゃんはポケモン達と遊んできてくれる? あ、ご飯はあげたから」

ルナはさっきポケモン達と合った時の事を思い出し、しぶしぶ、

「……うん」

と答えた。

そして食堂から出ていこうとすると、後ろから声がかかる。

「あ、あのさ  
「ん?」
  っ何でもない!」

頭にハテナを浮かべながらも、ルナは食堂から出ていった。


* * *



「……」

リナはルナが出ていった扉をしばらく眺めていた。

そして、ため息を吐いた後、食器洗いを始めた。

食器洗いと言っても、ルナも自分も綺麗に食べているのでそれほど苦は無かった。

  いや、あった。

リナはニンニクが嫌いで、カケラを避けて食べていたのだ。

リナはグラタンの入れ物を持ち上げ、そして  

ざー。

三角コーナーに捨てた。

「ふぅ……」

そして何事も無かった様にちゃっかり食器洗いを再開する。

ニンニク? 何それ美味しいの?

「……」

それにしても、とまたため息を吐いた。

何故、言わなかったのだろう。

「やっぱり……行っちゃうの?」

……と。

姉の前では平然と振る舞ったが、寂しくないわけが無かった。

ましてやリナはルナより更に子供だった。精神年齢は置いといて、だ。

それに、リナはルナが大好きだった。ルナと出会った、あの時から。

あの時の事を反芻すると心が暖まる気がした。

  ん?」

思い出に浸っていると、後ろから物音がした。

ポケモンだろうか。

でもポケモン達は今、ルナと遊んでいるはず。

大量のポケモン達と遊んであげられるルナはホントに凄いと思う。

そう思いながら、濡れた手を近くのタオルで拭きながら物音がした方に行く。

良ければルナ。悪ければ泥棒、か?

懐のボールに手をかけながら、警戒しながら物音がした方  窓の方に近付く。

ゆっくりとカーテンに手をかけ、そして勢い良く、

シャッ!

開けた。

「!」

目の前の光景を見て、目を見開く。

「居ない……?」

そんなはずは無い。近付いた瞬間に人間の気配だと悟ったのだから。

リナは色々あって、気配には鋭かったし、自信があった。

それなのに居ないとはどういう事だろうか。

「ん?」

窓の外にキラリと光る物を見つけ、リナは窓を勢い良く開けた。

確か、この辺に……。

地面に膝をつきながら草むらの中から先程見た「キラリと光る物」を探す。

  ! あった!」

思わず声をあげる。

手に取ってみると、リナは訳も無く心臓が高なり、頭にサイレンの様な音が鳴っている感覚になる。

「短い……黒の髪の毛?」



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