『マサキ(さん)!』

ルナは相当、久し振りで思わず手を握った。

眉根を寄せたレッドに対して、マサキはたじろぐ。

当然だ。あのコラッタの時に、凄い勢いで迫られたのだ。

それを思い出すと、つい顔がひきつってしまう。

また「コラッタになって下さい!」なんて言われたらと思うと、冷や汗をかいてしまう。

しかしルナから発せられた言葉は、

「お久し振りですね!」

だった。

晴れやかに咲いた向日葵のような笑顔に、マサキは拍子抜けしたように顔を赤くして「あ、あぁ、そやな……」としか言えなかった。

レッドがそれにより一層、眉根を寄せてルナとマサキを引き離した。

「それより! 早く組み合わせの紙、見せてくれよ!!」
「(なんや、妬いとんのか?)ほれ」

ルナもレッドが持っている紙を覗き見る。

その時に、ふわりとシャンプーの香りがレッドの鼻をくすぐった。

「ち、近いって!」
「なんでですか、じゃない……何で?」
「当たり前だろ! ほら後で見せるから!」

レッドが真っ赤な顔でしっしっとルナを追い払う。

その態度に、悲しげに眉を下げて首をかしげる。

「今まで『近い』とは言われまし、言われたけど追い払う事はしませんでし、しなかったよ?」
「え? あ、ホントだ。何でだろ」
(アホか。答えは明確やろ!)

鈍感な二人にイライラするマサキ。

「まぁ、でも……ゴメンな」
「いえ。どうぞお先に見て下さい」
「ほらまた敬語」
「あ。……ゴメンね」
「良いよ! まだ慣れないんだろ?」
(見せつけてるんか? これは彼女居ない歴イコール年齢のわいに見せつけてるんか?)

マサキは今すぐにハンカチを噛みたい衝動に駆られた。

ニッコリ笑ったレッドは、対戦表に目を通すとわなわなと震え始める。

「レッド君?」
「初戦がグリーンとになっちゃった……」

紙を受け取ると、確かにCブロック通過者のレッドとDブロック通過者のグリーンがぶつかっていた。

ついでにAブロック通過者のブルーとBブロック通過者のルナがぶつかっていた。

よく考えてみれば当たり前の事だが。

「気を落とさないで……ん?」

そうルナが言った時、遠くから手だけが出ていてひらひらと来るように呼ばれた。

不思議に思いながら、紙をマサキに返して「ちょっと、ごめんなさい」と言って二人から離れた。

手の大きさからいって、最低でもリナでは無いだろう。

無難なところでオーキド博士だろうか。

そんな事を考えていたら、驚くべき人がいて口をパクパクと開けてしまった。

呼ばれた場所には黒い包帯を巻いたオジサンだった。

「えぇ!? ど、どなたですか?」
「私はドクターOだ」
「ど、ドクターO!? お、お医者さんですか!?」
「コラ、オーキドの博士」

おろおろとドクターOと話していると、横から凛としているが可愛い声が聞こえてきた。

見ると、リナが眉を吊り上げて怒ったような顔をしながら腕を組んでいた。

「……リナ? って、オーキド博士ぇぇ!?」
「いや、ルナが面白くてつい、な」

頭を掻いて申し訳なさそうにしている。

確かに言われて見ればオーキド博士ご本人だった。

「ちゃっちゃと本題に入りなさいよ」
「そ、そうじゃな。ルナ。ちと大切な話なんじゃ、聞いてくれるか」
「………え?」


* * *



−本選会場−

レッドは組み合わせの事を引きずっていた。

両腕に頭を埋めて溜め息を吐いている。

隣のマサキがレッドの気持ちを汲んで、慰める。

「元気出しや、レッド。ライバルはんと決勝でけへんで残念やったけど、しゃーないやないか」
「そうよ。諦めてお姉ちゃんの試合を観てなさいよ」
『へ』

いきなり第三者の声がして、二人はすっとんきょうな声を出してしまう。

隣を見ると、小さな背の女の子が帽子を深く被っている。

帽子の下からは黒いリボンが見え隠れしていた。

レッドはその女の子をどこかで見た気がしたが、いまいち思い出せない。

「お姉ちゃん? どっちや?」

マサキがブルーとルナを指す。

二人は絶対にブルーだろうなと変に確信を持っていた。

「見てわからない? 結構似せてるつもりなんだけど」

そう言って帽子を取った。

さらさらとした髪の毛が肩に落ちる。

二人から見て右に真っ黒なリボンで結ったサイドテールは誰かを彷彿させる。

『え、ええええ!?』
「うるっさいわね……」

まさかのルナの妹だという事がわかった二人は大声で驚く。

リナはそんな二人に両耳を塞いで、うっとうしそうに顔をしかめている。

「し、しかもあの時の女の子!?」
「アンタは帽子を取らなきゃ、人の区別もつかないの……?」

今更の反応に深い溜め息を吐くリナ。

見たところの歳に相応しくない口調にマサキが関心したようにリナを見る。

「いいからバトルフィールドを見てなさいよ。始まっちゃうわよ?」

リナの言う通り、今まさに試合は始まろうとしていた。

「やべ!」
「………まぁ、お姉ちゃんは  
「え、今なんて」

何か重要な事を呟いた気がして、尋ねようとするがゴングが鳴ってしまう。


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