救急箱をカバンに入れるとルナは、それを肩にかけた。

どうやらこの家からすぐに出ていく気なようだ。

「きっと今頃トキワの人達が暴れているポケモン達をおとなしくさせるために森に向かってるわ。私も手助けしようと思って」

先程裂けていた背中を縫ったレッドの上着や黒いTシャツを綺麗にたたんで微笑む。

「トキワのジムね、凄い戦いがあって壊れちゃったの」

事情を知らない少女はキョトンとしている。

大きな瞳をパチパチとさせている姿は凄く可愛らしい。

「トキワの人達は優しい心を持っているから、あまりバトルはしないでしょう? だからバトルを教えてくれる新しいリーダーを見つけてね」

話を理解したのか、何度かうなずいた後ルナを見つめる。

「お姉ちゃんは教えてくれないの?」
「お姉ちゃんは……ジムリーダーには、なれないわ」

その後に「教えには来るわ」と向日葵のような髪を揺らして、向日葵のような笑顔で言う。

そして視線をレッドに移す。

「頼むなら、このお兄ちゃんにしてね」
「ウン。わかった」

ニコ、と笑う少女にルナはキュンとする。

無邪気な少女が凄く可愛らしく感じるのはリナがいるからだろうか。

反対に、リナが通常の子供≠ニは違う事を思い知らされる。

そう考えると少し切なくなってくる。

「……お姉ちゃん?」
「あ、ああ、なんでもないよ。それよりこの怪我人のお兄ちゃんに『目が覚めてもしばらく安静!』って釘を刺しておいてくれる?」

真っ赤な顔で頬を膨らませて言う。

レッドの事だから必ず目を覚ましたらトキワの人達を手伝うと言い出すだろう。

ルナは先程のレッドとの会話を思い出して顔を一層赤くする。

『だったら尚更オレが倒して良かったよ。ルナの両親の仇をとれて、大事なルナを守る事が出来て  

思い出す度に心臓が頭に響いて喧しい。

締め付けられるような痛みを感じている自分に気付く。

『あ、そうだ……オレの事、『レッド』って、呼んでくれよ……。あ、後、敬語じゃ、なくて……』

そんな事言われたらどんな顔をして会えば良いのかわからないじゃないか。

そう思ったルナは耳まで赤くしてドアへ駆け出した。

少女もちょこちょことレッドのピカチュウを抱いて着いてきてくれる。

どうやらお見送りしてくれるようだ。

その気遣いに心を打たれる。

「バイバイ、お姉ちゃん」
「うん、バイバイ!」

少女が手を振ってくれたので、ルナも笑顔で手を振り返した。


魔法のような彼の言の葉
(私もあなたが大事です)


20121210


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