ルナは目を見張った。 目の前でトキワジムがもろく崩れ去ったのだ。 なんだか胸騒ぎが無性にした。 トキワジムが崩れ去るなんて相当の力が必要となる。 確か前に何かで見た事がある。トキワのジムリーダーは無敵とされていて、そのエキスパートは地面タイプだとか。 無敵……地面……。 まさか、まさかとは思うが、そのジムリーダーと戦っているとか。 いや、そういう問題ではない。 でなければこんなに胸騒ぎがするとは考えにくい。 昔の記憶で、何かひっかかるものがあった。 しかしどうしても思い出せない。 両親が目の前で死んだ時に、これ以上傷付きたくないが為に両親の記憶を消そうとした自分が恨めしい。 とにかく、痕跡を探ってみる。 やはり思った通り、地面タイプの攻撃による破壊のようだった。 さっきから地面、という単語を思い浮かべると頭がくすぐったくなる。 地面……土……大地……。 (大地……?) 大地という単語を必死に繰り返し繰り返し頭の中でリピートする。 (大地……の、サカキ?) その言葉で、ルナはあの優しい母親が目を細めて警戒するような口調になった日の事を思い出す。 あの時、確かルナは母親と共にトキワに来ていた。 ふと気になったトキワジムを指差した。 「あれ、なにー?」 「……あれはね、このトキワシティのジムよ」 「つよいー?」 「……そうね、強いわ。凄く」 母親の周りの空気が変わった。 子供とはそういう事には鋭いというか、感じやすい。 ルナは黙って母親を見上げていた。 「彼は無敵とまで言われているわ。チャンプコンビでも勝てるかわからない、なんて適当な事も」 「パパやママのほうがつよい!」 「ふふ。そうね、強いわ」 母親の向日葵色でウェーブがかかった髪がふわりとなびく。 「でも」 口元は弧を描いているが、目が全く笑っていなかった。 「あいつの『強い』は、私達の『強い』とは一味違うわ」 子供のルナには、母親が何を言っているのかわからなかったはずなのに、聞き入ってしまう。 母親の言葉の一つ一つが大事なものの気がして。 「私達の『強い』は、普通の実力の事を言うわ。でもあいつの『強い』は実力プラス手加減の無さとためらいの無さなんだと思うの」 「まぁ、こんな事ルナに言ってもわかんないわよねー」とお茶らけてみせる。 しかしその後すぐに目を細めて、じっとルナを見据える。 「サカキには気を付けなさい。サカキに敵う人はいないわ」 そう言うと、にっこりと微笑んで手を繋いでくれる。 「あの人はロケット団のボスだから」 そうだ なんで思い出せなかったんだと自分を信じられなく思う。 「チュカ、行くよ!」 * * * トキワの森の入り口近くでは、まだ真新しい煙が上がっていた。 そこにはサカキらしき人物は見当たらず、いるのは、 「レッド君!!」 倒れたレッドと、その側で凄く心配そうにしているピカチュウだった。 「レッド君、どうしてこんなに無茶して、いつも私やポケモン達に心配をかけるんですか……?」 その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。 レッドはルナの声を聞いてか、うっすらと目を開ける。 「……ルナ、か?」 「レッド君! そう言って、怪我だらけの胸元をぽかぽかと叩く。 レッドはそんなルナの向日葵色の髪の毛に触れる。 「絶対負けられないと思ったんだ……。カントー全てのポケモンが奴の手に奪われないように……」 「レッド君一人で背負う事じゃないです! 私も、戦いたかった……! カントーの平和を奪う者を、私の両親を奪った者を倒すために!!」 ルナが感情的に叫ぶと、レッドは少し悲しげな顔をする。 その後にふわりと笑顔になる。 「だったら尚更オレが倒して良かったよ。ルナの両親の仇をとれて、大事なルナを守る事が出来て そんな事を言われて、ルナの頬がほんのり朱色に染まる。 なんだか告白されているような気分に浸ってしまう。 「あ、そうだ……オレの事、『レッド』って、呼んでくれよ……。あ、後、敬語じゃ、なくて……」 レッドはだんだんまぶたが重たくなったのか、途切れ途切れに言葉を発する。 言い終わらない内に、ルナの髪に触れていた手が地に落ちる。 「れ、れ……レッド * * * キュウコンやラッキーにレッドを運ぶのを手伝ってもらい、道端で丁度会った少女の家に入れてもらった。 ルナがレッドの手当てをしている時に、少女が「お兄ちゃんはお姉ちゃんのぼーいふれんど≠ネの?」と言われて慌てふためいたのは言うまでも無い。 包帯を巻き終わり、ルナが立ち上がる。 「どこ行くの?」 ←|→ [ back ] ×
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