ルナはレッドに自分の過去が暴露されているなんて事は露知らず、自分の家へと向かっていた。

高くそびえる豪邸。大きすぎる、なんて感じてないわけじゃなかった。

大きいと気付いたのは、両親がいなくなって、更にメイドやお付きの者を無理言って止めさせた時だった。

ルナとリナ以外は誰もいない家は孤独感を感じずにはいられなかった。

一度、リナの目を盗んで膝を抱えて泣きそうになった時、リナは黙って後ろから優しくルナを抱き締めた事を思い出す。

あの時のリナは最高に可愛かったな、なんてほくそ笑んでしまう。

自分の三倍はある大層な門を力一杯押して入ると、昔となんら変わらない花畑が広がる。

そこには、ポケモン達が楽しそうにじゃれあっている姿があった。

一匹が気付くとその場のポケモン達は皆、嬉しそうにルナに駆け寄ってくる。

「わっ、うわわわわ!」

ルナは久し振りのポケモン達の突進に、思わず身を引いてしまう。

気付いた時にはポケモン達に囲まれて、おしくらまんじゅう状態だった。

「あ、遊ぶのは後でっ!」

そう叫ぶと、ポケモン達はしょんぼりとしながらルナから離れた。

そんなポケモン達の表情に、胸が痛くなる。

「あ、そうだ」と言ってポンと手を叩くと、腰のボールを投げる。

煙をあげて出てきたピカチュウとキュウコン以外のポケモン達は、ここはどこだと辺りを見渡す。

「この子達は、旅で仲間になったポケモン! えと、この子達の方は家に住み着いたポケモン達! 仲良く遊んでてね!」

片手をあげて走って家へと向かっていく。

しばらく困惑していたようだが、すぐに打ち解けて遊んでいた。

その光景を見て、ルナは目を和ませる。


* * *



「ただいまー……っと、リナいないのかな?」

広く長い廊下を渡って、いつもリナがいる部屋のドアを開ける。

それほど広くも無く、狭くもない空間には大きなテーブルと先程まで座っていた跡のあるソファ。

テーブルの上にはリナの歳には難しい漢字が沢山詰まった小説と紅茶  おそらくミルクティー  が乗っかっていた。

まだ紅茶からは湯気が出ているという事は、まだ席を立って間もないという事だろう。

はたしてリナはどこにいったんだろう……?

「わっ」
「きゃあああぁぁ!?」

リナがルナの後ろから棒読みで驚かせると、ルナはオーバーにリアクションする。

しかしオーバーに見えるだけで、ルナはマジで心臓が皮膚を突き破って出てくるんじゃないかと思うほど驚いていた。

壁に貼り付いたルナは豊満な胸を抑えて、リナをお化けでも見るかのような顔で見つめている。

猫、もといニャースみたいに警戒するルナに、リナは笑いを隠せなかった。

「ふふふ。そこまで驚く?」
「だ、だって居ないものだとばっかり……あの、別にお化けだと思ったとかじゃないんだよ!」

少し照れ臭そうに目を逸らしながらぶつぶつと言い訳をしている。

そんなルナに、もっと笑いを誘われたのか声に出して笑い始めるリナ。

「そっ、そんなに笑わなくても……」
「ご、ごめんごめん。あはははは!」
「凄い笑ってる〜……」

爆笑するリナに目を潤ませる。

しばらく爆笑して、苦しそうにすーはーと呼吸をする。

「あー、面白かった!」

にっこりと満面の笑顔になるリナ。

リナの満面の笑顔なんていつ振りだろうかと嬉しく思うルナ。

おそらく、今まで一人で過ごしていた為、誰かと話す事が楽しいのだろう。

通常、リナの歳では一人ぼっちで家にいるなんて耐えられない事だ。

五歳で一人ぼっちになったルナはそれが手に取るようにわかる。

「お、お姉……ちゃん?」

また少し大人びてきたリナを、ルナは優しく包容するかのように抱き締める。

ルナの胸の中でリナは動揺したように視線をさ迷わせる。

リナに何と言えば良いのか、わからない。ごめんね? 偉かったね? ありがとう? 大好きだよ? 大人びたね?

いずれも、言うべき事だが何かが違う。

ぽそりと、呟くように言う。

「………ただいま」

何を言えば良いのかわからず、つい出してしまった言葉なのか、厳選して選んだ言葉なのかはルナにもわからなかった。

ルナからはリナの表情は見えない。

笑っているのか、泣いているのか、怒っているのか。

リナも、ぽそりとか細い、今にも消え失せそうな声で呟くように言う。

「………おかえりっ」

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