一瞬何が起こったのかわからなかった。 まばゆい光が三匹の伝説の鳥ポケモンを包んだと思ったら、今度は煙が立ち込めていた。 ただ、嫌な予感がして胸騒ぎだけがルナを支配していた。 あぁ、三匹が合体したんだな。 なんてふと思うのにも、かなり時間がかかった。 レッドが驚きの声をあげるまで、ルナはボーッとして立ち尽くしていた。 「これは!?」 「そうだ! 伝説の鳥ポケモン。機械から発生したエネルギーを集めこの3匹は…」 「そうだ!」ってまだ何も言ってないじゃないか、なんて揚げ足も口から出す暇も無く、ブルーが焦った様子で入ってくる。 「ぎゃあああああ!」 「ブ、ブルー!」 「ブルー!? どうしたの!?」 身体を揺するが、気絶しているようで目を開けない。 ルナは引っ掛かっていた。ブルーの尋常じゃない反応に。 確かに伝説の鳥ポケモンが三匹も連ねていたら普通、驚く。 しかしブルーの場合は驚くなんて可愛いものじゃなかった。 その時 「炎(ほのおのうず)! 氷(ふぶき)! 電気(かみなり)!!」 重なり合った三匹の三種の技がレッドのすぐ近くに放たれる。 「うわあっ!」 「レッド君!!」 ぎりぎり避けたとはいえ、ルナは心配で思わず声を張り上げる。 レッドは無事なものの、技が放たれた壁がもろく崩れる。 「カベが…」 「凄い威力……!」 「三鳥一体攻撃が可能となる!」 不敵に笑うナツメにぞくりとした怖気を感じて小さく震えるルナ。 そんな時、ナツメが何かを放り投げる。 それはルナにとって信じられない光景だった。 「3つの属性を合成する研究は前から行っていた!」 「イーブイ!」 「ブイちゃん……!」 ルナは腰のボールがガタガタと揺れているのを感じながら、怒りが心の奥底で静かに燃えていた。 「ウフフ、そのイーブイも同じく炎・水・電気の3属性。イーブイの実験は伝説の鳥3匹の一体攻撃を実現させるための試験体作成だったのだ!」 ブイは怖い思いをして勝手に実験され、エヴォはそれを何も出来ないまま見つめるしか出来ない。 そんな風景がルナの脳裏を駆け巡る。 「最終調整に必要だったので、おまえが研究所に転送した好機を狙いとりかえしたが…。ウフフ。もう用なしだ!」 「なんてやつらだ!」 レッドはイーブイを優しく持とうとしながら、ルナの様子をうかがう。 彼女の唇からは顎まで滴る血が数滴流れていた。どうやら歯で唇を思いっきり噛んだらしい。 ルナが怒りで顔を歪ませている これまでの旅路で、ルナの怒った姿を垣間見てきたが、これは今までと比べようが無い位の怒りの表情だった。 「ただの実験だったのだ」 「ふ…ふざけんなぁ ナツメのその言葉に、レッドは痺れを切らしたようにフシギソウを出して攻撃する。 「ムダだと言ったハズだ!」 フシギソウは三匹の攻撃によって、虚しくも穴の外に放り出されてしまった。 レッドが急いで手を伸ばすも、届かない。 「あ…」 「ウワ ナツメは三匹の力に酔いしれているのか、最初にルナが持っていたナツメの印象とはかけ離れた雰囲気で高らかに笑った。 「炎・岩・草・電・毒・水・念! 各リーダーが持つバッジ! エネルギー合成を行うためには、どうしてもすべてのバッジの影響力が必要だった」 正義のジムリーダーの三つ、悪のジムリーダーの三つ、半正義半悪のジムリーダーの一つ。 それで七つだった。 しかし、カスミやエリカが簡単にバッジを悪に渡したりしないとルナは考え、あることに気が付いてハッとした表情になる。 まさか 「…が、正義のジムリーダーからバッジを奪うのは容易ではない! 何度かゆさぶりをかけたが効き目なしだったからな」 「 「! ああ、そうだ。そこでレッドとグリーン、そしてルナがバッジを集めてきてくれるのをここで待っていたというわけだ。始末しようと思えばいつでもできたが、泳がせておいたのだ、ウハハハハ」 一瞬、ナツメは今までの雰囲気と違うルナに驚いた様子を見せたが、すぐに妖しい笑みを浮かべた。 「ご協力感謝するぞ! これで最期だ! 死ね! 虫けらどもめ!」 三匹の一体攻撃がレッドとルナに襲いかかる。 凄い圧力で息が出来なくなる。 「マサラの地はわれらが利用させてもらう! 町の者の、ポケモンを操る才能も含めてな! おまえたちはそういう運命なのだ!」 吹雪≠フ冷たい風と炎の渦≠フ蒸し暑さと雷≠フ痺れで、だんだんと意識がもうろうとしてくる。 「ぐ…あ…」「う……、あ……」 そんな薄い意識の中で、何人かの声が聞こえてくる。 いずれも、自分に歩く道を示してくれた大切な人 『マサラは、世界で一番ポケモンが汚されていない場所だ。マサラとは白。汚れなき白という意味だ』 『いいかい? この町はね、広い、広い世界の中で一番、ポケモン達が汚されていない場所なんじゃよ。マサラの意味は白、汚れなき白という意味じゃ。ルナも真っ白で汚れが一切無い子じゃなあ』 『お姉ちゃんは白が似合うと思うの。だから白い服を着ていって』 『パパはマサラで育ったんだ。マサラの人は皆良い人だ。汚れが無いんだよ。ルナもそんな人達に囲まれて、真っ白な旅路≠歩みなさい』 優しくて、強い声色の耳をくすぐるような心地よい声にルナがもうろうとした意識を覚醒させた。 ルナもレッドも、ピカチュウを三匹に向かって放つ。 「くそ 「私の大切な人達の町を」 『汚されてたまるかー!』 二人の、心からの叫びだった。 その時 「そのとおりだ、レッド、ルナ! …あきらめるのはまだ早いぜ!」 グリーンが穴の外からリザードンに乗って現れた。 「…グリーン!」 「グリーンさん、無事だったんですね!」 「おじいちゃんと町の人は助けた。あとはこいつを倒すだけ!」 そのグリーンの言葉に、ルナは力強くうなずく。 「こしゃくな! ムダだと言ってるのが…わからないのかぁーっ!」 三匹の一体攻撃が三人を襲い、地面に叩きつけられる。 身体がボロボロになり、節々が痛かった。 しかし、諦める事だけは絶対にしない、と奥歯を噛み締めた。 「レッド、グリーン、ルナ! あなたたちなかなかチャーミングだったわよ。何年か後が楽しみだったかも」 「でも」ナツメは腕を挙げる。 「サカキ様の魅力には遠く及ばないわね、ウフフ。さぁ、とどめだ!かぜおこし=I」 三匹のかぜおこし≠ェ色々な方向に巻き起こる。 まるで三人を包むように吹いた。 ナツメは楽しげに三匹の力を操り、声をあげて笑う。 「ハハハ! はやく、サカキ様に勝利の報告をしたい!」 レッドもルナも、突破口をどうやったら切り開けるか考えていた。 ルナが考え事をしていた時、グリーンと肩が触れる。 「あ、すみません……あ」 「………何だ」 きっとその語尾には「こんな時に」が付くだろうと思った。 「いえ、そのペンダント。役割を果たしたんですね」 博士がグリーンに渡した所を見ていたルナはひびの入ったペンダント──いや、リフレクターと同じ効力を持つ防御道具を指差した。 グリーンは少し照れながら隠すように握り締める。 中に博士の写真を入れているからだろうか。 だが記憶だと写真は二枚入っていた気がした。 「あ、そうだ。……ありがとうございました」 「何がだ?」 淡く微笑むルナに目を見開いて問う。 「私がさっき、少しだけ諦めかけた時に声がしたんです。グリーンさんの声が」 「な……!?」 正確には、複数の中の一人なのだが、ルナの言葉を聞くとグリーンの声だけが聞こえたように聞こえる。 思わず顔を赤くする。 その時、白に近い薄桃色のポケモンが指を振って三匹に凄い速度で向かっていく。 「あれは……妖精ポケモンピクシー!」 「こ…これは!でんこうせっか=I」 「よし!」 ピクシーは連続で、ファイヤーにれんぞくパンチ=Aサンダーにみだれひっかき=Aフリーザーにはかいこうせん≠攻撃した。 「ゆびをふる≠ヘランダムにいろいろな攻撃が出る特殊技! しかも、ピクシーに進化した今、個々の攻撃力も急激に上がっている!」 「突破口は開けた。次の手は…」 レッドの素早い機転の利いた行動にポカンとするしかないルナ。 「させるか!ゴッドバード!!」 本来、ファイヤーしか使えない技を、三匹合体した事で三匹で攻撃してくる。 レッド、グリーン、ルナ、気絶しているブルーまでもが壁の向こうに落下していく。 レッドとルナは大きな悲鳴のような声をあげる。 ナツメはそれを壁の近くで見送っていた。 「ふう。この高さから落ちたらまず命はないだろう。一瞬…ヒヤリとした…ん?」 先程までの余裕の表情が無くなり、焦りをあらわにするナツメ。 あり得ないものでも見るように。 「!? フシギソウのツルがネット状に!?」 気絶していたブルーも目を覚ましていて、ルナに支えられている。 四人は余裕の笑みだ。 「私の事、神の愛娘 ルナがナツメに聞こえるように大声で、誇らしげな顔で言った。 神の愛娘≠フ意味をリュウから聞いていたのだ。 ナツメは一気に悔しそうに顔を歪ませた。 「ええーいっ! もう一度ゴッドバード≠セ! いけええい!」 「きた!」 レッドが三匹の伝説の鳥ポケモンが襲来した事を知らせる。 「ブルー! ルナ!」 『ええ!』 二人は息が合ったように、ブルーはカメックスを、ルナはピカチュウを出した。 「あっちが3つのエネルギーで攻撃ってんならこっちは…、4つのエネルギーで攻撃だ!」 リザードン、カメックス、フシギソウ、ピカチュウが構える。 戦いの準備は整った! 「サ・ファイ・ザー、ゴッドバード!!」 「草(つるのムチ)!」 「炎(かえんほうしゃ)!!」 「水(ハイドロポンプ)!!!」 「電気(10万ボルト)!!!!」 三つのエネルギーと、四つのエネルギーが光を放ってぶつかり合う。 「いっけえぇ レッドが力を込めて、そう、叫んだときだった。 フシギソウの花が 三体の最終進化形が、揃った。 『ビルが崩れる…その、前に!!』 力を増した四つのエネルギーは、三つのエネルギーを弾き飛ばしてサ・ファイ・ザーに炸裂する。 ナツメの顔がどんどん青ざめていく。 『やった!』 四人は満面の笑顔を溢した。 ナツメはショックか、三匹を操った疲労でか、その場に倒れた。 そして、合体していた三体は解放されたように離れる。 「ファイヤー、サンダー!」 レッドとルナは心配したように同じポケモンを探してキョロキョロしていた。 その時、鮮やかな青い翼が視界に入る。 そのポケモンはこちらを向いていた。 「フリーザーも…!」 『よかった! ……え?』 二人は声を合わせて不思議そうにする。 しかし、今はビルが崩れている。うかうかはしていられなかった。 急いでツルを使って下に降りて、逃げるように走って行く。 「ビルが崩れるわ!」 「急げ、レッド! お前はもっと急げ、ルナ!」 「ええ!?」 そんな談話をしていたからか、ルナは気付かなかった。 誰かがビルの影から見ていたなんて。 ←|→ [ back ] ×
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