レッドとルナは素早く机の上に飛び出し、ピカチュウをナツメめがけて突っ込ませる。

「こ…こうなりゃ攻撃だ! ピカ!」
「チュカ!」

しかし、二匹のピカチュウはどちらもナツメを攻撃せず、そのまま床に着地した。

「!? ど…どうしたピカ」
「チュ、チュカ?」

全く警戒しないピカチュウに、ナツメが優しく触れる。

そしてこっちを見て淡く微笑む。

「かわいい子だこと、攻撃すべき相手ではないと知っている。おや!? その機械を発見したか」

ナツメはこちらに手を伸ばして  

顔の部分が剥がれたようにズルリと剥ける。

「ねえ、レッド、ルナ」
『うわああ!?』

ルナは思いっきり驚き、足を滑らせてこけてしまう。

そんな事を二人は知らないまま、ナツメもどきは顔の皮を剥いだ。

「なんてね! アタシよレッド、ルナ。変装の名人だって知らなかった? ピカちゃんとチュカちゃんは私ってわかってたのよね」

ナツメの顔の下からブルーが出てくる。

ブルーは悪びれる事も無く、語尾にハートをつけてちゃっかりとした態度を取る。

「ブルー!」
「こういう使い方もあるってコト!」
「メタモン!」

メタモンは身体を元の大きさに戻り、プルプルとした身体を震わせた。

あれそういえば、とブルーがキョロキョロし始める。

「あら? さっきまでルナ、いたわよね?」
「え? あ、ホントだ! ルナどこ行った?」

二人が部屋の外を見るが、いない。

ルナのピカチュウがレッドのズボンのすそをくんと引っ張る。

「ん、なんだよ……って、あ  !」
「きゃっ。何よ……あ」

床を見ると、ルナが目を回してのびていた。

二人は唖然とした様子でルナを見下ろしている。

「まさか、私をお化けかなんかだと思ったのかしら……」
「ルナならあり得るな」

二人で言葉を交わしながら苦笑する。


* * *



ピカチュウ二匹組がルナの顔に尻尾でぺちぺちと叩く。

すると、目を固く瞑り、わずらわしそうに身をよじらせた。

気が付いたようで、ルナは目を開けて辺りをキョロキョロするとレッドとブルーが取引をしているようだった。

「なあ、ブルー。取引なんてしなくてもいっしょに力を合わせて戦えば…」
「カンちがいしないで、レッド。アタシはあなたとは別の目的でここに来たの。この取引でお互いの目的が達成されるハズよ」

ブルーが「私を信じていうとおりにしてちょーだい」と言うと、レッドは少しムッとした顔になる。

まだ少しブルーを信じられない部分があるのだろう。

「…信じて…いいんだな」
「当たりまえでしょ」

ブルーは可愛らしくウインクをしてみせる。

そのブルーの言葉を信じたレッドは素直に月の石を渡した。

「OK! 取引成立ね!」

お互いの目的の物をてにいれると、お互いが満足そうに笑みを浮かべる。

「取引終わりましたかー?」
「わっ、びっくりした! ルナ、気が付いたのか?」
「え? あ、えへへ。ちょ、ちょっと眠くなっちゃっただけですからね!」

頭を掻いて、照れ臭そうに顔を赤くして笑うルナは明らかに嘘を吐いていた。

そんなルナに二人は「嘘つけ!」と思ったのだった。

「あ! そういえばいつの間にかブルーがいる!?」
「貴女はちょっと黙ってなさい」

いじけるルナをよそに、ブルーは軽く咳払いをする。

「ねえレッド、ついでだから教えてあげる」
「?」

ブルーが手招きでレッドを呼び寄せる。

「その機械は奴らの切り札よ。7つそろったトレーナーバッジはポケモンの力を上げるエネルギーを生むんだって」
「そうか! サンキュ!」

ルナとレッドは一緒にトレーナーバッジを機械にはめこんでいた。

だから気がつかなかった。

  ブルーが策にハマったレッドを嘲笑う顔を。

その時、三人は聞いたことのある声を聞いて、心臓を跳ねあがらせた。

「そこまでわかっているのなら、なおのこと生かしておくわけにはいかない!」

入口の所にナツメがユンゲラーと仁王立ちで立っていた。

その顔には怒りの感情が。

「このナツメを…よくもコケにしてくれたな。ガキどもめ!」

私は何もしてません。

ルナは無実を装って目を逸らした。

「ほ…本物!?」

今突っ込むべきはそこなのか。

そう思ったルナもこのナツメは顔の皮を剥がないかとひやひやしていた。

「そのキカイを渡せ!」
「ブルー、ルナ、危いぞ! さがって!」
「ハイ」「ハ、ハイ……」

すぐさまレッドは機械を持って、ブルーとルナを下がらせる。

ブルーは語尾にハートを付けて可愛らしく言って、何か楽しげだ。

反対にルナは不安げに、何か迷っているようにレッドをチラチラ見ている。

「奴らの狙いは増幅機! それなら、逆に利用すればいい! これで7つめだ!」



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