ハァハァと、水分を欲しがっているように喉から自然と荒い息が出る。

ルナの体力で走りづめはきつかった。

もはや自分がどこに向かっているかさえわからなくなってくる。

とりあえず、上へ……! 三人のもとへ!

という気持ちでとにかく走っていた。

曲がり角。誰かとぶつかる。

「す、すみませ……」

途中で気付いたが、ここはロケット団しかいないんだから何謝ってるんだろう。

そう思い、ボールに手をかけると、

「ルナ!」

聞き覚えのある声が上から降ってくる。

顔をあげると、これまた見覚えのある顔が飛び込んでくる。

「レッド君!!」

ルナはあまりの嬉しさに、思わずレッドを抱き締める。

いきなりの事に、目を見開きながら顔を赤くしておたおたとするしか無いレッド。

そんなレッドに、足下のピカチュウが少し呆れたような顔をする。

「え、えーと、無事で良かった」
「レッド君こそ! ボロボロじゃないですか!!」

レッドからいきなり離れたと思ったら、今度はボロボロの身体や服に眉を下げながら触れる。

「ルナだって、薄汚れてたりしてるぞ?」
「う……、そ、それは……」

言葉をつまらせるルナに優しく微笑むレッド。

「とにかく、さっきブルーの悲鳴がしたんだ。一緒に助けに行こうぜ」
「ブルーさんが!? わかりました!」
「ところで………ここは何階だ〜?」
「なっ、わかってて進んでたんじゃないんですか!?」

あはは〜、と笑って誤魔化すレッドに力無く肩を落とすルナ。

「とりあえず」

歳のわりに豊満な胸を反らして自信満々に言う。

レッドも期待の眼差しでルナを見る。

「あっちです!」
「そっちはさっきオレが行き止まりだから引き返した道だよ」

「あら?」不思議そうに首をかしげるルナ。

そんなルナを見て思った事はただ一つ。

(期待したオレがバカだった……!)


* * *



「くそっ! 迷路かよ、このビルは!」

結局、レッドが筆頭となってビルの中をさ迷っていた。

さっきレッドが言ったように、ここが何階か聞かれたら答えられないだろう。

「探してるうちにこんなに上まできちまった。ブルーはどこに……ん!?」

扉も無い、不自然な部屋を見つけた二人。

部屋の中を覗いて見ると、ポツンと机の上に丸い物体があるだけだった。

「ここは…」
「何の為の部屋なんでしょうか?」

ルナはいつの間にか部屋の中に入り、キョロキョロと見渡していた。

レッドも周りを注意しながら入ると、気になるものが目に入った。

それは丸い円盤のようなものだった。

「なんだこりゃ!?」

手に取ろうとするが、予想以上に重たく、抱える形になってしまう。

「よいしょっと、けっこう重いな」
「大丈夫ですか?」

手を貸そうとレッドに手を伸ばした時、人影が部屋の前に現れた。

二人はそそくさと机の裏に隠れた。

ロケット団達の会話に耳をすませる。

「いたか?」
「いや」
「マチス様だけでなくキョウ様も倒された。リュウ様もボロボロのパーカーだけ残っていたからきっと……。おまけに…ビルに炎をはなったようだ!」
「早くあのガキどもを探さなければ! …が、トレーナーバッジの増幅機の保管場所を離れるわけには…」

ボロボロのパーカーだけを残すだなんて、策士だなぁとルナは心の中で感心した。

それとリュウに様付けは似合わない、とも。

そんな事を思っているとは微塵も思わず、レッドが呟いた。

「トレーナーバッジの増幅機…!? きっと…これのことだ!」
「だからここにはこれしか無かったんですね」

その時、聞いたことのある女性の声が遠くから聞こえてくる。

「なにをしてる! 少女が逃げて来なかったか?」
『イイエ!』
「この階の警備は良い! 下へ行け!」
『ハハ! ナツメ様』

レッドは盗み見て、ルナは名前を聞いて目を見張る。

(あ…、あいつは! マサラで研究所を襲った奴!)
(リュウ君が危険視するナツメって方……)
(リュウクン?)
(あ、いや……)

声を殺して二人が話していると、靴音が部屋に響く。

(……! 入ってきた)

ナツメはキョロキョロと何かを探している動作をする。

この部屋にあったものというと、

(これを探してる!?)
(しか、無いでしょうね)
(この穴の形は…トレーナーバッジの形! ここに…バッジがはまる!? ……キョウもこの機械を使ったのか!?)

レッドは上着をめくり、黒Tシャツのバッジを真剣な目で見つめた。

(……。今…オレの手もとには…6つのバッジがある…!! この7つの穴をうめるのに…あとひとつ!!)
(! ちょっと待って下さい。バッジって確か、8  

その時、レッドが手を滑らせ、増幅機で音をたててしまう。

「ム! 誰かいるのか!」
(……ヤベ!!)




[ back ]
×