パズルガール | ナノ
 #07

 最初に彼女が社長と共に入ってきた時、メンバー全員が恐らく同じ事を考えたであろう。

(新しいアイドルか?)

 ──と。

 それ位に彼女には華があり、目を引く存在だった。確かに紡もふわふわとした小動物のような可愛さだが、彼女の場合は学校で一人はいる、いわゆる『高嶺の花』のような存在だろう。
『高嶺の花』とは不思議な物で、自然と近寄りがたいような、そんな気持ちになる。

 見た目もお上品な御嬢様という感じなので、雑用なんて出来るのかと思っていた。


 けれど、彼女はどんな仕事もそつなくこなしてみせた。


 今もそうだ。書類整理が終わったから少し見にきたと言い、真剣に自分達のダンスを見つめていたかと思えば、的確に意見を出していた。

「陸さん、一度振りを間違えると焦ってしまうのか、全てズレてしまうので、少し間違っても気にせず続けてみましょう!お客様は一回の間違いなら気にせず楽しんで頂けます」
「そ、そうですね!分かりました!」

「ナギさん、ウインク等のファンサをやり過ぎて足が少しだけ疎かになってしまいますね。ファンサはナギさんのソロの時だけに絞りましょう!それだけで充分皆さんは満足なさって下さいます」
「I know! 分かりました!」

「壮五さん、大人しく纏まり過ぎかもしれません。せめてソロの時はナギさんみたいにちょっとしたファンサを入れてみましょう!壮五さんの思わぬ一面にファンは射抜かれると思います」
「な、なるほど……やってみます」

「環さんは、ダンスがとても派手でお上手なんですが、他の皆さんよりも前に出過ぎてしまいますね。ソロの時はそれで良いですが、他の方のソロの時は若干押さえみて下さい!他のメンバーを引き立てるのも大事です」
「難しー……けど、やってみる」

「三月さんは、皆さんの様子を伺って足並み揃えるのが誰より上手いんですが、自分らしさが無くなってしまってます。他のメンバーがやってない動きをソロの時にやってみると良いかもしれません!三月さんなら大袈裟に動いても支障無いと思います」
「それはオレがちっさいっていう……?まぁ、やるけどさ」

「大和さんは、一つ一つの動きを流し気味です。その気になれば、一番ダンスが格好良く見えるのに勿体無いです!手を抜くなとは言いません、時々で良いので本気の大和さんをお客さんに見せてみましょう」
「言うねー……。んじゃ、まぁ、やってみよっかな」

「一織さんは、完璧で非の打ち所が無いですが、遊びが足りません。型から一度外したダンスを踊ってみましょう。皆さんはお手本になりそうな完璧なダンスを見たい訳では無いので、少し位遊びを取り入れたって大丈夫です」
「なるほど。やれるだけ、やってみます」

 一織は内心とても驚いていた。

 メンバーそれぞれに彼女が言った言葉は、まさしく一織が思っていた事だった。
 けれど、言い方を知らない一織はそれを自分が言ってしまえば、メンバー内に亀裂が入ると思って言わなかったのだ。紡に相談して、彼女に言ってもらうか否か、悩んでいた所だ。

 それがまさか、新しく来た新人に見抜かれるとは。どれだけ鋭い観察眼の持ち主なのか。

(なるほど……彼女が来て計算が狂ってしまったと思いましたが、少なくとも悪い方には行かなさそうみたいですね)

 彼女が挨拶した時からいつもより当社比三割増しで寄っていた眉が少しだけ緩くなっていく。




(まぁ、)
(少しは信用してみますか)

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