パズルガール | ナノ
 #06

「え、誰!?」
「どうも、こんにちは」

 大神万理が事務所に出勤すると、知らない女性がいて腰を抜かしそうになった。



「社長に何も言われて無いんだけど……」

 はぁ、と溜め息を吐いているけれど、社長の自由奔放さは理解しているのか、すぐに納得したようだ。

「改めて、こちらが新しく入って頂いた十六夜奏さんです」
「大神万理さんですよね。紡さんからお話はお伺いしてます、宜しくお願いします」
「あ、ああ、はい。宜しくお願いします……」

 紡の時とは偉い違いで、こなれている雰囲気に思わず気圧される。
 彼女の時は、自分の父親の事務所だというのに、本当に新入社員という感じで、初々しかったのだが。さては就職はここが初めてじゃないな?

(あれ?)
(……?)

 お互い、顔を見合せる。
 なんだかどこかで見た事があるような気がして、二人して凝視してしまう。

(長い髪を後ろで一つに結んでる男の人って意外と芸能関係の人で多いしな……)
(アイドルでも通用しそうな位整った顔立ちだな。こんな子見たらはっきりと覚えてるはずだしな……)

(気のせいか……)

 二人は同時に考えるのを止める。

「ちなみに、私はマネージャーさんの手助けを中心に、編曲と作詞、メンバーのコーチのような事をさせて頂きます」
「え!そんなにたくさん!?」
「はい。『何でもする』という条件で入れて頂いているので」
「と、いうかそれが全部出来るの!?」
「ええ、まぁ……」
「凄いですよね!」

 紡まで一緒になって褒め称えるものだから、奏は気恥ずかしくなり、顔を真っ赤にして目を逸らす。

「そ、そんなに大した事やないです……」
(あ、照れてる。ていうか関西弁?)

 照れた途端に出た関西弁に、万理は疑問符を浮かべた。関西出身なのだろうか。
 そんな事を思っていると、彼女が席をガタガタと立つ。もう少し落ち着いて立ち上がっても良いと思うが……そんなに褒められ馴れてないのか。

「わっ、私、皆さんのダンスの振り付け見てきますね!!書類整理終わりましたので!!」

 整理した書類の束を慌てたように机の端に置き、カサカサとまるで虫のような動きで出ていってしまった。

「ふふ、可愛らしい方ですね」
「あー……まぁ、そうですね」

 澄ましてるかと思えば、少し褒めた位で真っ赤になって慌てて。最初に思った印象と全く違っていて、なんだか笑ってしまう。

 と、いうか最後のあの動きはなんだ。

「く、ふふふ……」
「だ、大丈夫ですか?」
「だい、大丈夫です……なんか、面白くなっちゃって……」
「ふふ、確かに……」

 紡も、万理に吊られて笑みを溢す。思い出してみると、確かに面白い。

「カサカサしてましたよ……」
「カサカサしてましたね……」

 くくく、と声を抑えてお互いに笑いあう。
 あの見た目が大人しく、『お上品な御嬢様』という雰囲気を醸し出す彼女が、まるで節足動物のように両足をカサカサさせて逃げるように扉の向こうに急いでいったのだ。面白くないはずがない。
 しかも、よくよく思い出してみれば、かなりの速さだった。

 なんだかじわりじわりと笑いのツボにどんどんハマっていく。

「笑いすぎてお腹痛い……!」
「私もです……!ふふ、」
「ははは!」





(そんなに笑われるとは)
(当の本人が一番吃驚だ)

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