#05
怖い程にあっさり入社を認められ、正直十六夜奏は戸惑っていた。
まるで今日の晩御飯を決めるかのように意図も容易く頷くものだから、唖然としてしまう。
いきなり電話をかけて押し掛け、なんでもやるから入れてくれと言い放った自分も大概だが。
「今は彼等にとって大事な時期で、そんな時に第三者を入れるのは危険かとも思ったが、新しい風を入れる事も必要かな」
そんな事を社長は溢していた。
その言葉、表情を見るだけで、彼等『IDOLiSH7』の事を大層大事にしている事が分かる。
素敵な社長だと、しみじみ思う。こういった仕事の社長というと、人を操る事が当たり前になる人がいたりするものだ。
楽の父、八乙女芸能事務所社長が良い例だ。
とはいえ、楽の父親だけでなく、他の社長でもそういう人物を見たことがある。
だからこそ彼のような柔らかい雰囲気の社長は珍しく思えた。
(でもこれは拷問かな?)
優しい小鳥遊社長はさっそくIDOLiSH7に君を紹介しよう、と言い出した。
いきなり!?早すぎませんか!?
とも思ったのだが、反論など出来るはずがなく。分かりましたと答えて、社長の後を着いていった。
「彼女が新しい小鳥遊事務所社員の十六夜奏さんだ。みんな、仲良くしてね」
小学生に転校生を紹介する先生か。
(とても逃げ出したいね、うん)
好奇の目、戸惑いの目、非難の目、驚きの目、七人七色な目を向けられる。
その視線を受けているせいで笑顔が引き吊る。
(あっ、さっきの三朴眼で眼鏡なイケメンさんがいる)
ぱちりと目が会ったので、軽く頭を下げる。すると、彼の隣に立っていた赤い髪の人が驚いたように大和を見た。
「大和さん、あの人と顔見知りなんですか!?」
「いや?さっきちょっと会っただけ」
また例の癖、眼鏡をくいっと上に上げる動作をしながら、なんとも冷たく言い放つ。いや、事実ですけど。
赤い彼と緑の彼に気を取られていると、ふと誰かに手を握られ、驚きのあまり激しく肩を飛び跳ねさせてしまった。
「えっ」
「可愛らしい彼女。ワタシとお食事でもどうですか?」
「おぉぉい!?ナギィィイ!!」
スパーーーーーン!!!!
景気の良い音が響き渡る。
一番背の小さい人が、華麗にナギと呼ばれた金髪碧眼のイケメンさんの頭をひっぱたいたのだ。
自分の父親は社長にも言った通り関西人で、少しだけそのノリが身に付いている所があるが、そんな自分でも拍手をしたい位に見事なツッコミだった。
「んじゃ、この場がまとまった所で、俺達も自己紹介するか」
「ま、まとまったんですかね……?」
真面目そうで大人しそうな見た目の少年は、今の言葉を聞いて疑問を抱いたようだ。
ボケのボケ返しとはこの事か。
「俺が一応リーダーの二階堂大和ね、よろしく。んで、こっちの一番小さいのが──」
「小さいって、い、う、な!……和泉三月、です。ちなみに俺はこの人より一個下の21歳だから」
「えっ!?」
「うん、そういう反応が返ってくるって知ってたよ!」
自分で年齢を言って驚かれるのは腹が立つけれど、だからといって言わないでいると、必要以上に子供扱いをされるのはより一層心にクる物がある。
「んで、こっちが俺の弟な」
「おと……大人っぽいですね」
弟!?と言いかけ、三月の名誉の為にもなんとか誤魔化す(誤魔化しきれていない)。
背丈云々もそうだが、弟と言われた彼の雰囲気がかなり落ち着いていて、大人っぽいのだ。
「和泉一織です」
ぺこりと頭を下げる。
彼は何がそんなに不満なのか、ずっと眉間に皺を寄せていた。
いや、癖なのかもしれないが、少なからず自分の事を良く思っていない事は肌で感じ取れた。
「一織は元々こんな顔なので気を悪くしないで下さいね!」
「七瀬さん……」
「フォ、フォローしてるんじゃん!」
「貴方はフォローの仕方が下手過ぎるんです!」
(仲良いな……)
言い争いを始めたけれど、彼等の間には不思議と信頼関係が作り上げられている事が分かった。
お互いがどういう人間か理解しているからだろう。
「一応この弱々しい人が、うちのセンターの七瀬陸さんです、一応」
「い、一応ってなんだよ!」
そのまま二人はまた言い争いを始める気がしたので、先程一番常識人のように見えた白髪の彼に視線を向ける。
すると、そんな視線に気付いてくれたのか、慌てて口を開いた。
「僕は壮五といいます。 MEZZO"にも所属してます」
(MEZZO"って確か……IDOLiSH7よりも先にデビューしたユニットだよね)
「それで彼がもう一人の……」
「あんた、王様プリン好きなの?」
「た、環君!?」
彼の視線の先を見ると、スーツのズボンから王様プリンのマスコットがはみ出しているのに気が付く。
「はい!美味しいですし、マスコットも可愛いですよね」
「あんた良く分かってんじゃん!」
「環君!年上の方にそんな態度失礼じゃないか!」
「そーちゃん、また邪魔すんのかよ!」
「邪魔じゃないよ!ただ僕は……」
「あー、もー!うるさいなー!」
「お、おお……」
MEZZO" の『兄弟のように仲が良い説』は幻だったらしい。
一織と陸の言い争いは見てても不思議と安心して見ていられるが、彼等の言い争いは見てるこちらがハラハラしてしまう。
言い争いをする一織達を止める為に助け船として頼ったのに、まさか二人が言い争いを始めるとは。
「えと……で、貴方が、」
「六弥ナギといいます!」
(あれ、苗字は日本なんだ。ハーフ?日本名?)
カタコトの日本語を話しているので、てっきり純粋な外語人かと思った。
(IDOLiSH7ってこんな個性的な人達だったのか!)
今までのイメージがガラリと変わった瞬間であった。
けれど、悪い意味では無く。
むしろ身近に感じられて、嬉しくなる。
……まぁ、それと同時に、こんな自由な七人をマネージャーさん一人で一生懸命まとめていると思うと、同情を禁じえなかった。
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(彼等の側にいたいと思う)
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