パズルガール | ナノ
 #04

 
「失礼致します。今朝お電話させて頂いた十六夜です」

 扉の前で深々とお辞儀をしながら名乗ると、少し離れた所から「入っておいで」という声が聞こえてきた。

「はい」

 いよいよ小鳥遊社長と御対面か。

 固唾を飲み、社長の席まで歩みを進める。こういう時、ただ歩いているだけだというのに、時が何倍も遅く感じる。

「みゅ」
「…………えっ」

 薄いピンクのもこもこが、社長の机に乗っかっていた。可愛らしく、みゅ、みゅ、と鳴く。
 先程のもこもこの正体はこのうさぎだったのか。……なんとなくマネージャーさんが頭に浮かぶ。

「……こんなに可愛らしい社長さんだなんて、すごいカルチャーショック」
「みゅみゅ!」
「私今日からでもここで働きたいです、社長」
「みゅ!みゅ!」
「いいんですか、社長!ありがとうございます!」

 きりっ、と鋭い目で頷いてくれるうさぎ社長。今にも抱き締めたい、この可愛さ。

「あ、あの〜……社長は僕なんですけど……」

 椅子の後ろからソッと頭を出す本物の社長。
 うさぎの社長に浮かれている彼女に、自分のような普通のオジサンが本物の社長だと分かったら、がっかりされてしまうかと思ってビクビクする。

「……す、すみません。悪ノリし過ぎてしまいました」
「へ?」

 きょとんとした顔が、どこかマネージャーさんに似ていて、ふと思い出す。彼女の名前、確か楽のラビチャに『小鳥遊紡』と表示されていて……、

(彼女、社長の娘さんだったのか!)

 だからあの若い年齢で七人という少し人数の多いグループを持てたのかと納得する。

 という事は、八乙女社長の息子である楽がそのライバル事務所である小鳥遊事務所の娘を好きになったという事か。
 彼の父親の性格的にも考えて、尚更一筋縄ではいかなさそうな楽の恋路に、より一層後押しをするモチベーションが上がる。

「私の父が関西の出身なので、思わず……血筋とは恐ろしいですね。本当に申し訳御座いませんでした」

 綺麗に最敬礼である45度のお辞儀をしながら謝罪すると、優しい瞳で小鳥遊社長が笑っているのが、頭を上げた瞬間に見えた。

「……それで、君はここで働きたいんだってね」
「はい」
「……それはどうしてかな?」
「それはこちらのアイドルであるIDOLiSH7の方達が素晴らしく、その事務所であるこちらで働きたいと思いました」
「本当?」
「は、い」

 柔らかく微笑む彼の瞳がふと鋭くなり、つい言葉に詰まる。
 一瞬でうさぎが鷹になったのを垣間見たような気持ちになった。

 うさぎみたいで優しそうでも、社長という高い位置にいるだけの凄みも持ち合わせているようで、そのただ者ではない様子を見せられた奏は手に汗握る思いだった。

「どんな仕事もしてみせる所存です。作詞、作曲、編曲、振り付け、マネジメント、もちろん雑用でも喜んでやらさせて頂きます」

 決して不埒な思いで入社しようとしている訳では無いのだという事をアピールする。逆にガツガツし過ぎてしまっただろうかと言ってから不安になる。

 なんでも見透かしそうな社長の視線が突き刺さる。一瞥してから「ふむ」と小さく呟く。
 その声だけで、心臓が鷲掴みにされるような気持ちだった。



「分かった!
 今日から君はここの社員だ!」



 やっぱり駄目だったか──って、


「…………えっ」



 今、なんて?





(十六夜、父親が関西人)
(もしかして彼女は……)
             
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