パズルガール | ナノ
 #02

「八乙女芸能事務所のライバル事務所のマネージャーさんなんだ」

 ふんふん、と無意味に頷きを繰り返す彼女に嫌な予感を感じるものの、こういう時は無視をしとくのが一番だ。

「ところで、今日は何食べる?」
「……蕎麦」
「また〜?」
「今日はとろろ蕎麦だ」
「知らんがな……」

 結局の所蕎麦やがな。

「お前も好きだろ?」
「好きだよ、好きだけど!」

 毎日蕎麦じゃないか!
 そう訴えかけるけれど、楽の蕎麦好きは筋金入りで「じゃあタヌキ蕎麦にするか?」と真面目に返されてしまった。
 彼は蕎麦の事になるとこういう天然を発揮してくるから勝てない。

「分かった分かった、じゃあとろろ月見蕎麦で折れてあげよう」
「お前本当その食べ方好きだな」
(あんたが言うなや)

 ちなみに、楽は父親である八乙女宗助とは共に暮らしておらず、一人暮らしをしている。
 奏も実家を離れて一人暮らししているので、こうして楽の家に押し掛けているという訳だ。

「……がっくん最近落ち着いた?」
「何が? ……ああ、そういう事」

 突然声のトーンを落としてくるので何事かと思ったが、最近起きた事を省みれば簡単な事だった。

 最近、八乙女芸能事務所は盗難事件を起こした。もちろんメディアには取り上げてはいないけれど、楽の心には深く傷がついてしまった。
 しかも相手はライバル事務所のアイドル、IDOLiSH7。おまけに彼らのデビュー曲となる予定だった曲だ。それを知らずに歌っていた自分達が情けなく感じて、どうしようも無かった。

 そんな落ち込んでいた時期があったのだが、それを慰めてくれたのが奏だった。
 彼女は自分に綺麗事を言っても意味が無いと分かっているから、黙って頭を撫でてくれた。
 昔、辛い事があったら彼女の母親が頭を撫でてくれたのだ。それを真似たのかもしれないが、その行為にどれだけ救われたか。

 彼女の手の温かさが、やわらかさが、楽の心を落ち着かせてくれた。

「あの時は……その、助かった。
 ありがとう、な……」
「な、なんやねん、いきなり。照れるやんけ……」

 蕎麦と一緒に食べる天ぷらを作り終えて持っていく途中で照れたように礼をいきなり述べられたので、思わず手を離す所だった。

「い、いいよ!お互い様でしょ!いいから食べよ!?」
「おう」

 蕎麦は熱い内に食べるのが一番だからな。

「お前の関西弁久しぶりに聞いたな」
「今言う、それ!?」
「──痛っ!?」

 手にした箸で楽の手の甲を刺してやる。良い子は真似しないでね!



「えーっ、と。ここがそうかな?」

 携帯の地図とその建物を見比べる。
 思ったよりも小さくて驚いたけれど、外観は写真とほぼ同じであるし、間違いは無いだろう。

「ま、いっか。とりあえず入ってみよー」

 彼女が上機嫌で入っていった扉には『小鳥遊芸能事務所』と書かれていた。




(いざ、尋常に潜入じゃ!)


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